「なんで暗記しないといけないの?」に回答なし

私の場合も、7歳で、掛け算の“九九”が発端で母とケンカして、師弟関係が決裂しました。

「なんで“九九”って暗記しないといけないの?」

そう尋ねた私に対して、母から納得できる答えが返ってきませんでした。納得できないことは、進んでやれません。私は母にこう反論しました。

「掛け算なんて覚えなくても、足し算だけでもできると思うけどね」

例えば7×7の答えは49。九九を覚えておけば、たしかにすぐに答えが出ますが、足し算と引き算しか知らない私が編み出した計算式は、こうです。

10歳の頃の内田さん。母(右側)とお出かけ(提供=内田拓海)

7が2つで7+7=14。これが3つで14+14+14=42。これで7が6つ分ということだから、そこにもうひとつ7を足して答えは49。

まどろっこしいですが、私がその時持っていた知識だけでも解ける。しかも計算を速くすれば、そんなにスピードでも劣らずに答えが出せる。そうなると、

「“九九”はやらなくていい」

それを聞いた母は「この子の考え方は私の想像を超えているから、もう教えられない」と、完全に匙を投げたそうです。

「いつかタイミングがくる時まで放っておこう」

難しいことはデバイスに任せる手がある

それ以来、私は勉強についても完全に両親からは放っておかれるようになりました。私も徹底的に母から教わることをやめました。

パソコンを使って、ネットで勉強のサイトを探して、ポチポチポチ……と自分で“百マス計算”をやったり。そうこうするうちに、こんな考えにたどり着きました。

「十分なデータも入力されていて、計算も速く正確にやってくれるデバイスがある以上、すべての知識を丸暗記する必要はどこにあるんだろう?」

この頃から、簡単なものはもちろん自分で処理すればいいけれど、自分の知識や処理範囲を超えるものはデバイスに任せる手もある、という考えを持つようになりました。

ですから私は、今でも“九九”を覚えていません。でも、それでも何とかなっています。少なくとも日常生活を送る上では、まったく問題ありません。