「聞き取り」をしても情報はほとんど得られない

国勢調査は1920年(大正9年)に始められ、ほぼ5年に1回実施されてきた。すでに100年の歴史を持つ。戸籍が作られたのは1871年(明治4年)だったが、最初の国勢調査で分かった日本の人口より、戸籍に記載されていた人口の方がはるかに多く、すでに死亡している人などが戸籍に残っていることが判明した。つまり、国勢調査は始まった段階から、戸籍など住民登録との数の違いに直面したわけだ。つまり、人口といった「国のかたち」を知る基本情報ですら、実は正確に把握するのは難しいのだ。

そこで取られてきたのが「聞き取り」だった。「町内会」などの顔役が調査員になれば、その地域の住民のことはだいたい分かる。「お隣さん」に聞けば、今失業中か働きに出ているかなども知っている。そんな地域のコミュニティが機能していた時代には、「聞き取り」という手法は有効だったに違いない。

だが、時代は大きく変わっている。都市部のマンション住民など、隣に住んでいる人の職業はおろか、家族構成すら知らない、顔も見たことがないケースが増えている。町内会はあっても入っていない人も増えているから、「聞き取り」しても情報はほとんど得られない。自治体が「聞き取り」の手順を省いているのも、無理もないことだと言えなくもない。

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「不詳」が大きく増えることになる現実

仮に「聞き取り」を実施しても隣人ですら、ほとんど詳しいことを知らないので、空欄になる「不詳」が大きく増える。家族の誰が就業しているのかを示す「労働力状態」という項目では、東京都港区の場合、「不詳」率が4割近くにのぼるという報道もある。

国勢調査の数字が「不正確」になると、他の様々な統計データに齟齬が出る。例えば、未婚率を計算する場合、「配偶関係不詳」となった数字を除いて計算した場合、実態と食い違う可能性がある。回答する人に結婚している人が多い場合、「不詳」を単純に除いて計算すると未婚率が実態よりも低くなるわけだ。

こうした実態と統計のズレを補正するために、国は「不詳補完値」という数値の公表を始めた。不詳を単に除くのではなく、統計学的手法を用いて推計値を加えることで、より実態に近づけようという配慮だ。