公式記録に残していいのか

要するに、ひとたび引退宣言をした選手の公式戦でのプレーにはさまざまな疑念がついて回るのだ。引退表明する選手の多くは力が落ちたから引退するのであり、その選手が引退表明後、公式戦に出場するのは、果たして適切なことなのか。

もうひとつ言えば、引退表明した選手が公式戦に出場すれば公式記録に永遠に数字が記録される。先に挙げた西武、岡田雅利の今季の公式記録には、2024年1打数1安打、打率1.000という数字が加算されるのだ。

プロ野球の公式記録は、1936年のリーグ戦開始以来88年にわたって、記録員が公式記録を録り続けてきた。膨大な記録は何度も整理されて「歴史の蓄積」としてデータベース化されている。

もし、ここに真剣勝負とは言えない数字が混入している可能性があるとすれば、記録を追いかけてきた筆者などは残念に感じるのだが。

イチローの引退発表への違和感

実は引退表明を巡る疑念は、MLBにも存在する。

記録に新しいのは2019年3月21日、東京ドームでのメジャー開幕シリーズで引退を表明したシアトル・マリナーズのイチローだ。

2005年5月、シアトル・マリナーズで打席に立つイチロー(写真=Googie man/CC-BY-SA-3.0-migrated-with-disclaimers/Wikimedia Commons

すでに45歳になり、守備はともかく、打者としてはバットスピードは全メジャーリーガーで最低レベルに落ちていた。

開幕第2戦、菊池雄星のメジャーデビュー戦に9番右翼で先発出場し、4打数無安打に終わったのを最後として引退した。ただし、この試合でイチローの引退が球団から発表されたのは、試合が始まってからだ。試合開始時点でスタメンに名を連ねたイチローは、まだ引退表明していなかった。

筆者も球場でこの試合を見た。試合終了後、グラウンドを1周して観客の声に応えたのは感動的ではあったが、メジャーの公式戦をセレモニーにしたという印象はぬぐえなかった。

さらにMLBでは大選手がシーズン開幕前に「今シーズン限りで引退する」と表明して、シーズンに臨むケースがある。

2014年のヤンキース、デレク・ジーターや2016年、レッドソックスのデービッド・オルティーズなどがそうだ。2人ともに引退表明したシーズンをほぼフル出場し、オルティーズなどは打点王を獲得した。この2人は余力を残したうえで自ら引退を決めたのだ。実力がありながら自ら引退年限を決めたという点では今年の青木宣親に近いだろう。