私は福井県の八百屋の子として育った。子どもが商売を手伝ったり家事を分担したりするのは当たり前のことだった。その経験からしても、最も子どものためになるお手伝いは、家業を手伝うことだと実感している。
とはいえサラリーマン家庭ではそうもいかない。私は次善の策として家事を手伝わせることにした。3人の娘全員に、物心つくかどうかという時期から家事の手伝いを始めさせたのだ。掃除、洗濯、お使い等々……。
ただ、お手伝いといっても、小さな子にやらせれば親の手間はかえって増える。自分でやってしまうほうがよっぽど楽だが、夫婦で我慢し、子どもにお手伝いをやらせ続けた。
お手伝いをすることによって作業の段取りが良くなる、気が回るようになるといったメリットは、実は副次的なもの。大切なのは「親の仕事が一番大切」という価値観を伝えることだ。
そのための必殺の「お手伝い」が、「お父さんを駅にお迎え」だった。仕事から帰ってきた私を、娘たちに迎えにこさせることにしたのだ。7時前に駅に着いたときには家に電話し、お迎えを頼んだ。もちろん宿題より大事(笑)。子どもたちが全員でお風呂に入っていて出られないというときには、代理で妻に迎えにきてもらい、誰かしらが必ず迎えにくる形にした。
「何が一番大切なのか」がわかる形をしっかりつくり、例外を認めず実行していくことが、価値観の伝達には大切なのである。
三谷宏治
1964年生まれ。東大理学部卒。経営コンサルタントを経て、現在は大学教授、著述家、講義・講演者として全国を飛び回る。