「ひとりの天才」がいても結果は出せない

特に出場した4つの種目全ての団体戦でメダルを獲得したことを高く評価する宮脇さんは「個人戦のメダルはひとりの天才が生まれれば可能かもしれないが、団体戦は多くの選手の競技力を高める必要がある。全種目男女に幅広く、メダリストを生むに足る高水準の育成環境が整い、持続的に維持された結果でしょう」と語る。

日本フェンシング躍進の起点は、2003年以降「常に背伸びをして」グローバルに通用する強化環境を整備したことだ。この「背伸び」とは、他国から「日本には贅沢だ」と言われそうな名実違わぬ海外コーチを連れてきたり、長期の海外遠征など思い切った環境整備を指す。

「継続的な有力選手養成のため、それを支える財務力、経営力、発信力、国際的ネットワークを形成する力を協会は徐々につけてきた。グローバルにアンテナを立てる強化環境がなぜ必要かというと、国際スポーツの潮流(スタイル)やルール解釈は微妙なニュアンスで常に変化し揺れ動いている。常にグローバルなアップデートが必要なのです」(宮脇さん)。

提供=宮脇信介氏
宮脇信介さん

「常に背伸びをすること」が重要

フェンシングは個人競技なので「団体競技のボールゲームとは強化やマネージメントのやり方が違う」と意見もあるだろう。しかしながら、宮脇さんの話には、団体競技が学ぶべきポイントが三つある。

まず1つめ「個人戦のメダルはひとりの天才が生まれれば可能かもしれないが、団体戦は多くの選手の競技力を高める必要がある」という部分。それに続く「高水準の育成環境とその持続」は大いに類似性がある。球技こそひとりの天才が出現したとしても世界と渡り合えない。

裾野であるアンダーカテゴリーの小中高校生がどのように育てられるのが理想なのか、各競技がビジョンとプロセスを示すこと。コーチングデベロッピングに力を入れ個人の指導力向上を促しつつ、それを阻むものがないかを洗いなおす。例えば、トーナメント戦をリーグ戦に転換するなど構造的なミステイクを洗いなおす作業も重要だろう。

2つめは「常に背伸びをすること」。すぐれた監督や指導者を招聘するとともに、より厳しい環境の海外リーグへと選手が渡ることを奨励したい。普段から世界トップクラスと戦う者が増えれば、選手たちは気後れすることなく戦えるようになる。大谷翔平選手が伝えてくれたように「憧れない」メンタルの発露になるはずだ。