日本は観光大国として君臨できる

日本は、神社・仏閣・庭園などの文化財、美しい自然と温泉に加えて、観光大国となる3つの条件「安全性」「交通の便」「宿と食」がすべて揃っている。

ただし、国や民族によっては細かな配慮が必要だ。たとえば、冷たい飲食物に慣れていない人が多い中国人に対しては、冷たいビールを出すとお腹を壊すこともあるので、常温にするなどの工夫が必要だ。もちろん日本の食生活に慣れている中国人なら問題ない。温泉に入るときも同様で、人前で裸になるのは嫌だという中国人もいる。

日本に慣れてきた外国人旅行者は、京都や箱根、富士山などのゴールデン・ルートを避けて、北陸の金沢に行ってみたり、シーズンによっては桜前線を追いかけてみたり、紅葉を見に行くことが増えて、分散化が進んでくるだろう。

昨今、深刻な問題となっているオーバーツーリズム(観光公害)の解消にもつながる。だから私は、やり方次第で、訪日外国人旅行者6000万人達成は十分可能だと考えている。

「田舎の古民家」にはチャンスが眠っている

実は世界では旅行先として「何もない田舎」の人気が高まり、そのニーズを取り込むための動きが活発化している。

たとえば、イタリアには「アルベルゴ・ディフーゾ」という分散型のホテルがあり、過疎化で寂れた集落を再生する手段として、観光客に提供されている。「この家がフロントです」「そこから200メートル以内のあの家が、あなたの宿泊場所です」といったように古民家をうまく活用しているのだ。

それがうまくいっているので、日本でもイタリアのモデルを研究し始めている。これが整備されれば、過疎化が進む日本の田舎も再評価されて、観光地化できるだろう。増加に歯止めがかからない空き家対策にもなる。

イタリアの場合、一泊や二泊ではなく1週間単位で滞在するのが普通だ。そして観光客が集まっているのを見て、都会で熾烈な競争をしていた料理人が戻ってきて、田舎で店をはじめる。フランスの「最も美しい村運動」のような廃村に近い地域を再興するやり方をしているのだ。このような取り組みが日本でも実現すれば、訪日外国人旅行者6000万人達成、GDP10%増加も夢ではない。

まずは確実に結果の出る政策に取り組め

こうした観光立国の施策によって国としての経済成長に弾みをつけつつ、個人金融資産2000兆円に金利をつけて数十兆円の金を生み、お金を持っているシニア層の人たちに大いに日本をエンジョイしてもらうと良いだろう。

大前研一『世界の潮流2024–25』(プレジデント社)

外国人だけでなく、日本の人たちにも自国をエンジョイしてもらうのだ。私が首相だったら「人生、毎日楽しんでなんぼや」と言うだろう。「ロシアとの平和条約締結」「観光立国化推進」の2つの政策はぜひ2024年中に実行してもらいたい。

これら2つの施策は画期的なものではないかもしれないが、取り組んで1年間で確実に結果が出るものに取り組むという意味では、かなり具体的なものである。

ウィッシュリスト(望ましい一覧表)ばかり出している岸田首相には、この2つの政策でまず結果を出して自信をつけていただき、より深刻な日本の問題に次々と取り組んでもらいたいという希望も込めて提示する。

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