「買ってください」と迫らず何気ないことをすくいあげる

すごく驚いたのは、彼がちっとも「売らない」ということです。それまで営業経験のなかった私は、営業というと「買ってください!」と迫っていくものなのだろうというイメージがありましたが、彼はちっとも売りません。

では何をしているのかというと、とにかくよく人の話を聞いています。別に保険の売りにつながることを聞き出しているわけではないのです。ただ、何でもよく聞いています。

そして相手が今興味があることや、関心のあることを自分の中にインプットしておいて、折に触れその情報を提供してあげるのです。

独立を考えているなどという人がいれば、自分のネットワークから店頭公開をしたベンチャーの社長を紹介して引き合わせてあげる。ワインが好きだというのを聞くと、彼が足で見つけた厳選レストランをメールですぐに送ったりする……等々。

何気ない話の中で出てきた何気ないことを彼が真剣にすくいあげてくれることに、多くの人は感動するのです。しかもやってあげたというような嫌味がみじんもありません。

本当にこの人は何かをしてあげたくてやっているんだなという感じが伝わってくるのです。それで、その結果として、こんな人に保険を任せたいと周りが自分からドアを叩いてくるわけです。

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とにかく売らず、存在価値を認める言葉を連発

また別の営業マンの話です。彼はある情報通信の会社で5年近くトップ営業マンとして活躍した後、コンサルティング会社を起こした人です。彼は私どもの会社とアライアンスを組んでいることもあって、幾度も営業に同行したことがあります。

彼も、全然売りません。もう少し押したほうがいいんじゃないのと、提携しているこちらとしては思うのですが、とにかく売らないのです。

何をしているのかというと、もうひたすら、「お会いできて良かった」「この会社のファンだ」「この会社の製品のここが良い、あそこが良い」「雑誌に載っていた社長のこの言葉を覚えている」といったふうに、とにかく相手自身の、あるいは相手の会社の存在価値を高める言葉を連発するのです。とっても自然に。お世辞にはまったく聞こえません。

鈴木義幸『「承認(アクノレッジ)」が人を動かす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

あるとき、彼と同行して電機メーカーへプレゼンテーションに行ったのですが、そのときの彼の話の切り出しには本当に驚いてしまいました。

「知人、友人を含めて御社の担当をさせていただいている人間を何人か知っています。それで今日ここに来る前に、彼らに御社を担当していてどうかということを聞いて参りました。

彼らはみな口を揃えて言うんです。一度御社の担当をすると、すっかり御社のファンになってしまうと。ファンになるから御社のためには寝る間も惜しんで仕事をしたくなると。私もいつかそんな御社のファンクラブの一員にぜひなりたいと思って、今日は参りました」