中途半端な「じゃないほう」に焦り

コンビの仕事だけでなく、ピンの仕事がお互いに増えたことも、さらにすれ違いを生む要因でした。コンビ芸人にも人気や実力、得意ジャンルなどさまざまな“格差”があるのはみなさんもおわかりでしょう。TKOにもそれがありました。

ただ、もっとはっきりと格差があったら、こんなに関係がこじれることはなかったと思います。僕も「じゃないほう」なりに活躍の場がありましたから。自分がMC(司会者)を務める番組もいくつかあって、レギュラー出演している番組は僕のほうが多かったくらいでした。

一方で木下は三谷幸喜監督作品の『ステキな金縛り』や、あの大ヒットドラマ『半沢直樹』をはじめとして、映画やドラマにきらりと光る役で出演。個性派俳優としても一目置かれていました。さらに、自分のアパレルブランドまで展開している。

僕はいくつかのレギュラーを持たせてもらっていましたが、比較的地味な芸能活動になっていました。木下は単発ながら確実に爪痕を残している。それが、コンビの“立ち位置”だというのが僕なりの分析でした。

いま冷静に振り返ると、コンビとしてのバランスは取れていました。そう思えたらよかったのですが「俺だってもっと活躍したい」と欲しがる感情から逃れられなかったのです。

わかりやすい格差があれば「木下、俺も連れてってえな」とネタにして、バラエティ番組でアピールできたかもしれません。でもじっさいには、『アメトーーク!』の「じゃない方芸人」に呼ばれるほどではありませんでした。その意味でも、僕は多くの人にはどうでもいい“微妙な格差”の嫉妬心すら飼い慣らせていませんでした。

TKOの木本、木下のそれぞれの役割

木下はふだんから僕にこんな言葉を投げかけてくれていました。

「木本が場を作って、俺がそこを開拓する」

木本武宏『おいしい話なんてこの世にはない どん底を見たベテラン芸人がいまさら気づいた56のこと』(KADOKAWA)

そうなんです。僕がコンビの生きる場を作って、そこをスター性のある木下が開拓する。ルートは僕が決めるのですが、楽しいことを持ってきて、「これやれへんか」「こっちがおもしろそうやな」って導いてくれるのは木下の役割。その寄り道の際に、一緒に新しい発見をして行く関係性によるコンビの掛け算がTKOの生命線なのでした。

そんな木下の言葉を思い出して、僕らの原点に立ち返ることができました。

ですから、現在の僕の立ち位置は完全に定まっています。

それは、「木下にとって一番のパートナーでおること」。

木下隆行のおもしろさを世の中のみなさんにプレゼンするのが、僕ができる最大のアピールポイントだと改めてわかったからです。

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