人手が足りなそうだったので見かねて手助けに入ると「いつものやり方と違うのでやめてください」と注意されてしまいました。

「いつもはどうやっているの?」
「こうです」
「でも俺がやったやり方のほうが効率が良いぞ? 検証してみよう」
「本当だ! そうとわかったらマニュアルを変えちゃいましょう」

上司が言うからむやみに従うのではなく、効率性や合理性に適っており納得したから受け入れる。ある意味で、真っ当な感覚だと思います。

コロナ世代の新しい発想を引き出す方法

別の日の出来事です。店はキャッシュレス決済のみで現金を扱わないのですが、その日は開店直前に不具合が生じ、決済システムが機能しなくなりました。たまたま開店準備をしていたアルバイトが発見したのですが、社員とは連絡が取れません。開店時間が迫る中、彼女が取った行動に、驚きました。

「今日は現金決済にしちゃおう」と決断して、自分の預金口座から釣り銭を用意したのです。しかも、多種の硬貨を揃えるのが難しいと知るや全商品を一律500円と決め、スマホでチラシをつくってコンビニで出力して一人で“特別セール”を始めたのです。

私は事後報告でそれを聞かされたのですが、ちろん問題はありません。むしろ、危機対応としては完璧で「Z世代が本気になったらここまでできてしまうのか」と感心してしまいました。彼女が大胆に行動できたのは、コミュニケーションを密にして、信頼関係が構築できていたからだと思います。デジタルネイティブの世代ですから、自らの意思で動けば、上司の世代にはないアイデアも出てくるのです。

私は日頃からアルバイトにも店舗経営の目的やミッションを詳しく説明し、売り上げ管理などの情報もすべてオープンにしていました。もちろん、コンプライアンスの観点から公開すべきでない情報は誰にも見せません。ただ、公開できる情報に関しては誰でも見られるようにする。

ベテランも新人も、管理職もアルバイトも差はなく、考えやアイデアを自由に述べていい、間違ったことを言っても責められないという心理的安全性が確保されていることが大切です。

各世代が歩み寄れば大きな価値になる

世代が違えば価値観にギャップがあるのは当然です。ゆとり世代やコロナ世代は多様な価値観を持っていますから「今の若い人はこう」と一括りにもできません。ですが、時間をかけて向き合い、互いを理解しようとすればの溝は埋まります。そうして信頼関係が醸成できてしまえば、少々の無茶振りをしても食らいついてきてくれます。

私のところにも本当は芸術家志望でありながら、家の事情で会計士になるために商学部で勉強をしている学生がいます。あるとき勤務態度が良くないので注意しようと呼び出したら、思いがけず「じつは――」と悩みを打ち明けられました。私は答えを示せたわけではありませんが、とことん彼の話を聞き、できる限りのアドバイスをしました。それ以来、お互いの距離はぐっと近くなり、彼はふっ切れたように勉強にもアルバイトにも全力で取り組んでくれるようになりました。

企業とはさまざまな世代が力を合わせ補い合って、社会に価値を提供していく組織です。そして、これからの企業を担うのは、間違いなくゆとり世代・コロナ世代の若者たちです。若い世代を理解し、歩み寄るところは歩み寄り、若い世代に刺さる言葉でコミュニケーションを取りながら、能力を引き出してあげてほしいと思います。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月17日号)の一部を再編集したものです。

(構成=渡辺一朗 撮影=宇佐美雅浩 イラストレーション=竹松勇二)
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