安全な職種との触れ込みだったが、後になってまんまと嵌められたことに気づく。ロシア支配地域であるウクライナ東部ドネツクの戦線に派遣され、25人グループの一員として戦闘を命じられた。訓練はわずか3週間。手持ち式ロケット弾発射機のRPG-30などを持たされ、戦闘に駆り出されたという。「それまでは銃を持ったことすらなかった」と後に彼は言うが、後の祭りだ。

いよいよ戦地送られた、まさにその初日。いざ戦闘と身構えたわずか15分後、至近距離からの銃弾が左耳下の部分を貫いた。

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婚約者に「結婚前に家を建てよう」と約束していたが…

男性の周囲にはあたり一面、ロシア兵の死体が転がっている。気味が悪いなどと言っている余地もなく、その上にドサリと倒れ込んだ。

「ショックで動けませんでした。夜が明けて1時間ほど経つと、今度は別の爆弾が爆発しました。左足に重傷です」

血を流しながら塹壕の中で一夜を明かすと、翌朝になって前線から離脱。その後数週間、いくつもの病院をたらい回しにされたという。青年はインド大使館に連絡し、仮パスポートの発給を受けて出国。インドへと帰還した。

命だけは助かったが、男性の人生設計はすっかり変わってしまった。「村を出たとき、村に住む女性と婚約していたんです。お金を持って戻ってくるから、結婚する前に家を建ようね、と約束しました」

いまはビザ費用に充てたローンだけが残る。生活を再建するため、婚約はもう2年後ろ倒しとなった。一緒に渡航した2人の漁師仲間とは、いまも連絡が取れず、行方不明の状態だ。

YouTubeの広告動画に人生を狂わされたネパール人男性

ネパールからも多くの被害者が出ている。英ガーディアン紙によると、ネパール中西部、貧困地域のロルパ出身の男性は、YouTubeの動画広告に騙され人生を狂わされたという。

男性が見た動画広告は、ドイツで働くことができるという夢のような内容だった。応募したところ、担当になったエージェントは、経由のためロシアに一度飛ぶ必要があると告げた。悪夢の始まりだった。

男性はモスクワで拘束され、軍事キャンプ送りとなった。形ばかりの銃の訓練を受け、ウクライナ東部のバフムート送りに。ほかにインド人2人とネパール人4人が一緒だったという。

雪の夜、武器を運搬していると、ウクライナのドローン攻撃に巻き込まれた。男性はガーディアン紙に対し、「ドローン攻撃があるなどとは聞かされていませんでした」と語る。「足、太もも、右手を破片にやられました」。