一方、森ビルの「麻布台ヒルズ」は?

2023年11月、森ビルが約35年の月日をかけて開発した麻布台ヒルズがお目見えした。森ビルが発表した開発コンセプトは「緑に包まれ、人と人をつなぐ広場のような街」だ。

敷地面積は6万3900㎡。麻布台という台地を頂点に東京メトロ神谷町駅のある桜田通りまでの傾斜地を使った大規模開発だ。ここに地上64階建ての森JPタワー、最上階の住戸が1戸2億ドル(280億円)と噂される地上54階建てのレジデンスA棟、地上64階建てのレジデンスB棟。レジデンス戸数は両棟合計で1400戸。A棟はアマン系列の超高級ホテルジャヌ東京がオープン。高級ブランドがひしめく3棟の商業施設、ギャラリー、ミュージアム、インターナショナルスクール、慶応大学予防医療センターなど延床面積86万1700㎡にも及ぶ巨大な施設群が、立ち上がっている。

大型複合施設「麻布台ヒルズ」の「森JPタワー」 ©時事通信社

森ビルによればこの敷地の中央には6000㎡の中央広場が設けられ、緑地面積は2万4000㎡確保されているという。また森JPタワーの建設にあたって国際的環境認証プログラムの最高グレードにあたるプラチナ認証を獲得し、脱炭素社会の実現を図っているとのことだ。

多くの客でごった返しているが…

筆者が実際に現地に足を運んでみると、開業直後ということもあってか、多くの客でごった返していた。商業施設の多くはテナント入居前で、やや寂しい印象はあるものの、六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズの大規模開発で培った森ビルらしさを随所に感じ取れる開発であった。だが、一方でいつもの森ビルの「これでもか」といったてんこ盛りのコンセプトにやや食傷気味の自分がいることに気づかされる。

たしかに中央広場があって芝生の庭が設えられ、せせらぎがあるのだが、これがどうにもとってつけたような、言葉を変えるとあたかも“免罪符”のように存在していると感じられた。森ビルの宣伝動画では豊かな陽光を浴びた広場で外国人ファミリーがピクニックしているのだが、この広場に立つと、激しいビル風の洗礼を浴びる。掲げたスマートフォンが危うく吹き飛ばされるほどの風だ。とても広場で日光浴をする気にはなれない。

まるで広場を威圧するかのようにガラスカーテンウォールの壁面をむき出しにした巨大なビルが見下ろし、「人の営みがシームレスにつながる」というガーデンプラザもだらだらした上り坂。ガウディを彷彿とさせるようなデザインの石畳の街路と妙に互いが離れた店舗の裏道は夜間には少し怖いのではと連想させる。

環境認証にしても、移動にはエスカレーターが縦横無尽に張り巡らされ、エレベーターで地上330mまで引き上げ、これだけ鉄とコンクリート、ガラスの塊を集め、建物間に強烈なビル風を巻き起こす空間が「Green & Wellness」を標榜する開発コンセプトとあわせて面映ゆさを感じるのだ。