インド政府は「人工の雨」を模索する
より簡易的には、「スモッグ防止銃」が都市部の空気の浄化を図っている。車載の大型放水銃から宙に向けて水を散布し、大気汚染の原因となる微粒子を吸着させ路面に落とす計画だ。インディアン・エクスプレス紙によるとニューデリー市議会は、冬季のスモッグ対策として8台を首都全域に配備する。しかし、フィナンシャル・タイムズ紙は、スモッグ防止銃の効果は限定的で、ガス状排出物や微粒子を効果的に打ち消すことはできなかったと報じている。インド国立環境工学研究所のラケッシュ・クマール氏は、この装置の影響は最小限であり、大気汚染問題の包括的な解決策ではなく、その場しのぎにすぎないとコメントしている。
インド政府はまた、「クラウド・シーディング(雲の種まき)」と呼ばれる人工降雨技術の可能性を模索している。BBCの報道によると、このアイデアは中国やアメリカ、メキシコなどでも採用または検討されており、新しいものではない。微粒子を航空機から散布し、上空の水分が凝結するきっかけを作ることで降雨を誘発する。もっとも、独立系研究者のポラシュ・ムカジー氏は、降雨により一時的に汚染を減らすことができるが、汚染濃度はすぐにリバウンドする傾向があると指摘する。
また、クラウド・シーディングはコストが高いのが難点だともムカジー氏は語る。ロイターによれば、実証実験として100平方キロメートルを対象とした塩の粒子の散布が予定されており、約1000万ルピー(約1800万円)を投じる計画だ。
重要な票田だから厳しい対策を打ちだせない
新規技術を通じた大気汚染対策は興味深い試みではあるものの、そのほとんどは一時しのぎ以上の効果を持たないと予想されている。根本的には農業部門や工業部門からの汚染物質排出を抑制しなければ、長期的な解決は難しいだろう。だが、ニューデリーや近郊の農家たちは政府や地方議会の議員たちにとって重要な票田であり、ゆえに厳しい対策を打ち出しにくい構図がある。
一方、大気汚染はインドの広い範囲の国民に深刻な影響をもたらしており、対策は急務だ。一夜にして清浄な空気を手に入れることは難しいが、大気汚染が平均寿命を10年も奪っているとの指摘が上がるいま、一部の改善だけでも劇的な効果が見込まれる。シカゴ大学エネルギー政策研究所による研究は、仮に大気汚染が25%改善した場合、デリーでは住民の平均寿命が2.6年延び、インド全土でも1.4年延びる可能性があると試算している。
経済成長の過程で一定の公害に見舞われるのは各国の歴史に共通しているが、インド首都の大気汚染は直ちに対策が必要なレベルに達しているようだ。