「世界一眺めの悪いホテル」から見える景色

彼はパレスチナ分離壁の真正面にあるベツレヘムに「世界一眺めの悪いホテル」と呼ばれる《The Walled Off Hotel》(2017年)をオープンします。これは窓からの景色が分離壁で完全に遮断されているホテルです。実際に泊まることができ、彼の作品も見ることができます。美術ファンがバンクシーのホテルに泊まりたいがためにパレスチナを訪れると、分離壁の問題について考えることになります。

人々の意識を変えるための作品をあの手この手で作るのがバンクシーです。

日本でバンクシーが広く知られるようになったのは、東京オリンピック前の2019年に、東京で、バンクシーが描いたのではないかというネズミの絵が見つかったことがきっかけでした。小さなネズミの絵でしたが、もし本当にバンクシーの作品なら1000万円以上の価値があると大騒ぎになったのでした。

日本で描かれたネズミの意味

パピヨン本田『常識やぶりの天才たちが作った美術道』(KADOKAWA)

壁が切り取られて都庁で展示されるまでになって、ニュースでも取り上げられたので、日本で美術を知らない人にもバンクシーが知られるようになりました。このとき描かれた傘を差すネズミは、公害などが問題になった地域に多く描かれている彼のトレードマーク的な作品です。

ドブネズミすら傘を差すという皮肉めいた絵なのですが、東京のネズミが描かれたのが3月11日の直後と言われているので、原発事故での放射能の問題を揶揄しているのではないかと言われています。

彼の作品はいまや価値が上がりすぎて、メッセージよりも彼の作品の値段などのほうに話題が行きがちです。しかし、活動家としてメッセージを発信するアーティビストとして有名なのがバンクシーです。そういう目で彼の作品を見てみると、また違った発見があるかもしれません。

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