「風呂なし物件」はミニマリズムから来たものなのか
ここからが本題なのですが、Z世代を中心にミニマリストを志向する若者が増えているというニュースがあります。先月、日経新聞に掲載されてネットでも少なからずの話題になったのが「風呂なし物件、若者捉える」(2022年12月17日掲載)という記事でした。「昭和の時代をほうふつさせる『風呂なし』賃貸物件が、令和の若者の間で再び脚光を浴びている」という書き出しの世相記事です。
都心であるにもかかわらず賃料は4万~6万円。トイレはあっても風呂はないという古い下宿向けの賃貸物件を社会人になってからも好んで借りる若者が増えているというのです。そして節約よりもシンプルな暮らしをしたいという理由からそれを選ぶというわけです。彼らの持ち物は本当に最小限であり、おかげで部屋は広く使えています。
そして近隣には銭湯が2軒あるから仕事帰りに銭湯で汗を流して帰宅すればそれでミニマリストとしての生活は成立するのだといいます。とはいえ東京都では銭湯の数は激減していますから、今はよくてもこれからはどうかと思うのですが、スポーツジムやサウナ、ネットカフェなどシャワーが借りられる場所は逆に増えており、これから先も困ることはないといいます。
ミニマリストのもうひとつのコツで、冷蔵庫を持たないというアイデアがあります。不便なようで毎日、その日に消費し終わるものだけを買って家に帰る。一つひとつの食材は一見割高に見えても、廃棄食材が出ない分だけむしろ割安になるようです。
「若者の貧困化」を美化するなという批判
ただネット上で論争になったのが、このようなトレンドは若者の貧困化を美化しているだけではないのかという議論です。
そもそも30年続く不況とデフレで若者の収入は減ってしまっていて、それが昨年の値上げラッシュでますます苦しくなってきているという経済事情があります。それを豊かに克服したいと考えれば、若者はミニマリストを志向するのが一番いい。因果関係としては貧困化が先にあって、それを解決する方法としてミニマリズムが脚光を浴びているのではないかという批判です。
ここは議論が難しいところで、そのような因果関係は少なからずある一方で、もうひとつの世界的なトレンドである持続可能な社会を目指すうえでは、日本人全体がミニマリズム志向へと舵を切る必要があることは事実です。