直接被害額だけで約170兆円に上る
避難する人が大量に発生し、想定している避難所だけでは不足することが予想されており、避難所に入るにも「トリアージ」が必要なレベルになるだろう。
震度6弱以上または浸水深30センチ以上の浸水面積が10ヘクタール以上となる市区町村は30都府県の737市区町村に及び、その面積は全国の約32%、人口は全国の約53%を占める。
超広域での被害拡大は、国家による支援システムが機能しなくなる状況を生む可能性がある。被災都府県で対応が難しくなる患者は最大で、入院が約15万人、外来は約14万人と想定される。外部からアクセスが困難となる「孤立集落」も農業集落が最大約1900集落、漁業集落が約400集落に達し、発災直後は行政の支援の手も届きにくい。
経済被害も甚大だ。被災地では生産やサービス低下による生産額の減少、観光・商業吸引力の低下、企業の撤退・倒産、雇用状況の悪化、生産機能の域外・国外流出などが生じ、その直接被害額は約169兆5000億円に上ると試算。我が国の一般会計当初予算(2023年度)は過去最大の114兆円超となったが、それをはるかに上回るレベルだ。
日本という国家の存立を脅かしかねない
南海トラフには、日本経済を支える茨城県から大分県に広がる工業地帯「太平洋ベルト地帯」が含まれ、自動車製造業や鉄鋼業、石油化学工業、電子・電気機器などの製造業が集積している。「異次元の巨大地震」はそれらを直撃し、生産・サービス低下による間接被害額が最大年間44兆7000億円に達するダメージを与える。
経済活動が広域化する今日では、サプライチェーンの寸断や経済中枢機能の低下から日本全体に経済面で様々な影響が生じる。中部、近畿、四国、九州地方を中心とする「超広域」で地震動や液状化、津波による被害が生じ、復旧が遅れた場合には国家の存立にかかわる問題になるだろう。
静岡市や名古屋市、和歌山市、徳島市、宮崎市などで震度7の激しい揺れが生じ、東日本から西日本の24府県で震度6弱以上の揺れを観測すると予想される南海トラフ巨大地震。私たちは先人たちのように巨大地震の襲来を乗り越えることはできるのか。