7年納税しても、独身であればマンションを買えない

Aさんは四川省出身で農村戸籍を持っており、上海の大学に進学した。在学中は、前述のように、一時的な団体戸籍に入るので、上海で医療機関にかかることもできるし、差別を感じることもなかった。

だが、大学卒業後、上海の企業に入社する場合、都市戸籍を持っている人と違って不利だ。なぜなら、企業はできるだけ、もともと都市戸籍を持っている人を採用したいからだ。企業の規模などによっても異なり、最近は状況が変わってきているが、もし農村戸籍の人を採用するなら、企業はその人に、上海の都市戸籍(団体戸籍)に入る準備をしてあげなければならず、企業側の負担は大きくなる。

そこで、不動産の話だ。優秀だったAさんは何とか上海の企業に入社することができ、上海の団体戸籍にも入り、上海生まれの同僚以上にバリバリと仕事に邁進した。入社5年目、そろそろ頭金もたまったのでマンションを購入しようと思ったが、Aさんは上海市の不動産政策を調べてみて、はたと気がついた。自分は上海の不動産を購入できない身分である、ということにだ。

Aさんは団体戸籍保持者だったため、上海市内のマンションを購入する条件が整っていなかったのだ。地方によって政策は異なるが、上海市の場合、7年間納税していなければ不動産を購入できない決まりとなっている。また、団体戸籍保持者で、かつ独身者は7年間納税しても購入できない決まりだ。

写真=iStock.com/wutwhanfoto
※写真はイメージです

なぜ都市部の人は家を持てるのか

ほかにも、夫婦の1人が団体戸籍、もう1人が都市戸籍の場合など、戸籍によって購入できる条件が事細かに分かれている。これは本人には何の落ち度もない「出身地による差別」だが、現にこうした理不尽な問題があちこちで起きている。

逆に上海生まれ、上海育ちで上海の都市戸籍を持っている人は、不動産購入の点でも非常に有利な立場にある。中国人が不動産を購入できるようになったのは1990年代からで、それまで人々は単位と呼ばれる組織(企業や学校、団体などの勤務先のこと)から非常に安い家賃で住宅を支給されていた。不動産が民間に開放されるようになると、それを安く払い下げられ、1つ目の持ち家を持ったという経緯の人が多い。

中国の不動産は2000年代に右肩上がりで値上がりしたため、1軒目を転売して2軒目を持ち、財産を築いていった。このようにして、都市生まれの人々は不動産を数軒持っていることが当たり前になり、その子どもはそれを受け継ぐことができた。2020年に中国人民銀行が発表した都市部住民世帯を対象とした資産状況に関する調査では、住宅保有率は96%に達していたが、都市部に住む人々が不動産を持てた背景には、こうした理由がある。