「ドラえもん」を上手に使えるかに価値が出てくる

【橘】昔は重宝された記憶力も、今ではあまり価値がなくなりました。映画評論家の蓮實重彦さんはものすごい記憶力を持っていて、「この場面ではカメラはローアングルで、照明は左手から当たっていて……」と、すべての場面を記憶していた。映画館で観るしかなかった時代には、これは圧倒的な才能で、誰も太刀打ちできなかった。でも今は、どんなシーンもYouTubeで確認できるから、「この記述は間違っている」なんていわれてしまう。その時々のテクノロジーによって、評価される能力が変わることがよくわかります。

同じように歴史の年号や将軍の名前も、ネット検索すればすぐにわかるのだから、一生懸命覚えていても何の意味もない。計算はエクセルが全部やってくれるし、プログラムはChatGPTが書いてくれるようだから、プログラミング教育も必要なくなるかもしれない。AIがどんどんドラえもん化していけば、いかにドラえもんを上手に使えるかに価値が出てくるでしょう。

写真=EPA/時事通信フォト
ずらりと並んだドラえもんのフィギュアを見る女性。これは中国・青島で開催されている「ドラえもん展」の光景。さまざまな表情をした人形100体が展示されている=2014年5月28日、中国・青島

AIの進化でもっとも得をするのは高齢者

【和田】高齢者の医療現場にいると、「これからの時代、高齢者はつらくなりますよね」とよくいわれますが、それはITとAIの違いをわかっていない人がいうことです。AIの進化でもっとも得をするのは高齢者ですよ。ITというのは基本的に道具だから、われわれが使い方を覚えないといけませんが、AIは使い方を覚える必要はない。指示すればAIが考えて、いろいろやってくれる。だから遠慮なく命令できる人こそうまく使いこなせる。

【橘】突飛な命令ができるとか。

【和田】おっしゃるとおりで、「こんなことは無理」と思ってはいけないんですよ。おそらく解決できない問題のほうが少なくなっていくので、これは無理という思い込みが足かせになっていく。

【橘】AIはすごくおもしろいですね。その機能を上手に使いこなすにはどうすればいいか、何を求めて、どんな質問すればいいのかというところで差がつくことになるでしょう。