うまく人に相談できないというのも、知的障害や境界知能によく見られる特徴です。とくに境界知能の場合、「やる気がない」「怠けている」ととらえられ、周囲の人に理解されないまま、挫折を重ねて孤立するケースが数多くあるのです。

証人として出廷したKさんの母親は、幼い頃から叱責を繰り返したと打ち明け、「苦しい気持ちを何ひとつわかっていなかった」と泣きながら証言したそうです。本来ならば、社会に出る前に家庭や学校で支援の道筋を立てる必要があったのに、と無念に思います。

知的障害の特徴が「身勝手で短絡的」に

さらにいえば、裁判長が判決文で述べた「身勝手で短絡的」に見えてしまうというのも、まさに知的障害の特徴のひとつとも思われます。先のことを想像して考えるのが苦手なので問題を先送りしたまま現実に直面し、場当たり的な行動に出てしまう可能性もあるのです。

宮口幸治『境界知能の子どもたち 「IQ70以上85未満」の生きづらさ』(SB新書)

ほかにも、

「空港職員等に助けを求めようともしていない」
「妊娠を隠し続け……これを直視せず、先送りしたまま出産を迎え……」
「問題解決が困難である際に姑息こそく的(一時しのぎ)あるいは強引な行動に至る傾向があり……」
「母親に妊娠の事実を隠すなど……」

といった内容が書かれていました。困ったときに一人で抱え込んでしまい、融通を効かせて他者に助けを求めることが苦手だというのも、まさに知的障害の特徴のひとつと言えるかもしれません。

これだけ知的障害の特徴とも解釈できる様相を呈しているのに、知的な問題があるとは受け止められずに、本人の身勝手さ、思慮の浅さばかりが浮き彫りにされてしまったのです。

これは場合によっては冤罪えんざいにもつながりかねない大きな問題だと思っています。

「知的障害」「境界知能」をあまり知らない裁判官

先日もある県で裁判官向けに境界知能について講演をしたのですが、みなさん、知的障害についてすらあまりご存じではありませんでした。「知的障害ってそもそもどういう状態を指すのですか?」というレベルの方もおられました。「境界知能」であればさらに存じ上げない方も多いはずです。

そんな裁判官の方々が、被告人がおぼつかない言動をとり質問に適切に答えられない様子を見せても、知的な問題を疑うのは難しいと思いました。

知的障害があったとしても、気づかれずに「普通の人」として裁かれ、判決が下されることもあるわけです。これは恐ろしいことだと思います。この問題は、コミック版『ケーキの切れない非行少年たち』第4~5巻(新潮社)で描かせてもらっています。

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