65歳を過ぎたら健康診断を見直したほうがいい
とくに高年になると、がんの進行が遅くなるので、放っておいても大丈夫なケースは意外と多くあります。実際、先述のように、2人に1人はがんの存在を知らないまま亡くなっているのです。食事がおいしくとれて、好きなことも続けられるなど、生活にも支障なく過ごせます。治療に使うはずだったお金で、旅行も楽しめるでしょう。高年者専門の医師として思うのは、余計な検査と治療さえしなければ、がんになって亡くなるのは、わりとよい死に方です。
65歳を過ぎたら、健康診断が必要かも見直していきましょう。そのくらいの年齢になると、実は、がん検診や健康診断ほど無意味なものはないと私は考えています。むしろ、害にもなります。私は多くの高年者を診てきましたが、がん検診と健診は、病人を製造するシステムではないのか、とさえ思うのです。
検査の結果、血圧が高い、血糖値が高い、メタボだ、レントゲンで肺に影が見えたとなれば、さあ大変! 投薬だ、手術だ、と進められていきます。薬には副作用があり、臓器にメスを入れれば必ず体に変調が起こります。
また、胸部エックス線撮影やCT(コンピュータ断層撮影)による放射線被ばくも問題です。放射線を浴びれば、ご存じの通り、発がん率は上昇します。アメリカの喫煙者を対象とした大規模な調査によると、定期検診を受けている人のほうが、肺がんの早期発見数が多くなりました。ところが、肺がんによる死亡数は、定期検診を受けていない人のほうが少ない、という結果が出たのです。
「心臓ドック」と「脳ドック」は受けたほうがいい
この結果から、何がわかるでしょうか。エックス線による被ばく、投薬の副作用、手術のダメージなど、検診と治療が寿命に影響を及ぼしたことが推察できるのです。エックス線撮影によるリスクは、世界ではだいぶ前から認識されています。
実際、胸部エックス線撮影は1964年にWHO(世界保健機関)から中止勧告を受けています。ところが、厚生労働省はいまだに無視を続けています。CTはさらに危険です。イギリスの調査では、たった一度のCTでも脳腫瘍や白血病が増えることがわかっています。オーストラリアの未成年を対象とした調査では、CTを一度受けるごとに発がん率が16%ずつ上昇することが判明しました。
欧米で実施される比較試験や調査は、対象の母数が大きく、かつ、長期にわたっています。医学が科学である以上、医師は常にエビデンス(科学的根拠)に基づいた判断をしていく必要があると、私は考えています。
高年になると、健康に気を遣うあまり、こまめに検査を受ける人が多くなります。検査の数は、不安の数であり、「健康に生きていきたい」という生の欲望の表れです。ですから、どんなふうに生き、どんな死に方が理想なのかと向き合うことで、必要な検査を選べばよいと思います。
数ある検査のなかで、受ける価値があると私が考えるのは、「心臓ドック」と「脳ドック」です。これらは、予期できない突然死を予防するためにも有効です。ただし、CTによる検査は、5年に1回程度にしておきましょう。