われわれ国民には、義務と責任と権利がある

――高橋さんは『日本で軍事を語るということ 軍事分析入門』の中で、日本で軍事を語る重要性を強調されています。その理由は何ですか?

日本は防衛費増額に舵を切りました。防衛費を増やすという以上、納税者である私たち国民は、それがきちんと使われているかどうかを監視する義務と責任と権利があります。

防衛官僚や自衛官、そして一部の専門家に任せるのではなく、防衛費は適切に使用されているのかを検証し、必要があれば別の意見を提示することも大事です。そのためには、ある程度の知識が必要だと思っています。

防衛白書」などを読めば、いろいろな情報が入っています。自分の仕事と関係ないものにどれぐらい時間を割けるかにもよりますが、「インターネットなどで簡単に探せるものは読んでみましょうよ」と申し上げたいですね。

そして、何が論点になろうとしているのか、その論点で何を議論すべきなのか、一定の考え方は持てるようになったほうがいいと思っています。

「台湾有事」のはじまりは何が起きるのか

――日本の防衛費、軍事について考えなければならない背景には、ロシアだけでなく中国の動きがあります。「台湾有事」の可能性に関してはどのように見ていますか。

高橋杉雄『日本で軍事を語るということ 軍事分析入門』(中央公論新社)

台湾海峡有事というのは、中国共産党にとってはその存亡をかけた戦いです。負けたら共産党統治体制の正当性自体が疑問にさらされます。したがって、台湾統一へと動くなら周到に準備をして始めるはずです。

戦争がどういう形で降りかかってくるかは予想できませんが、いわゆる認知戦、つまり台湾を支援しないような国際世論を作り出すところから始まるでしょう。

ただ、にも書きましたが、よく言われるサイバー攻撃、中でもマルウエア(コンピューターやその利用者に被害をもたらすことを狙った悪意のあるソフトウェア)を使った攻撃は1回しかできません。

ウイルスを起動させると、そこにウイルスがいることがばれて、同じウイルスは全システムから駆除されてしまうからです。