3つめは、行動とその背後にある人間の心理を組み合わせて理解していくことです。パニック購買は、例えば、オックスフォード英語辞典では「今後の品不足や価格高騰に対する突然の不安から、何らかの製品や日用品を大量に購入する行為」だと説明されています。しかし、本当に大量に購入している人が不安感によってその行為を行っているのかなど、どういう心理的な特性を持っている人が大量購入したのかを、きちんとデータで行動と心理を照らし合わせて確認した事例というのはあまり多くありませんでした。このため、筆者らの研究では行動データとアンケートデータという異なる種類のデータを使ってこの検証を行いました。

一斉休校と最初の緊急事態宣言で急増

まず、最初の分析では、どのような機会に食品・日用品の急激な購入増加が起きたのかを明らかにしていきました。

図表1に見られるように、2020年2月の政府による小中学校の休校宣言と4月の第1回緊急事態宣言の後に、その機会があったことを確認しました。一方で、急激な購入増加が起きたかどうかは、当然、商品カテゴリ毎に異なります。起きたカテゴリもあれば、起きていないカテゴリもあるわけです。

また、特に第2波ではStay home(ステイホーム)の影響で恒常的に需要が増加した商品カテゴリも含まれてしまいます。そこで、急激に購入量が上がって、その後下がった、つまり「一時的な購入増加が起きた」カテゴリを波形の特徴から識別することに取り組みました。

その結果、こうした特徴を持つ商品カテゴリとして、ティッシュやトイレットペーパー、石鹸などの衛生品や乾麺、パスタ、小麦粉、米といった主食、缶詰やインスタント食品など保存の利く食品、ペット用品などが抽出されました。

縦線は休校宣言(2020年2月)と第1回緊急事態宣言(4月)。データソース:インテージSCI

「強くパニック購買する人たち」は全体の5.8%

次に、個人単位でこれらの商品カテゴリを「通常時と比べてどれくらい買い溜めたか」について指標化しました。そして、その指標に基づいて、消費者を分類する統計解析を行いました。その結果、次の5つの消費者群に分類されました。

・強くパニック購買する人たち(全体の5.8%)
・弱くパニック購買する人たち(15.8%)
・合理的に買い溜める人たち(15.0%)
・無関心な人たち(24.3%)
・通常より少し多くの備蓄をする購買経験の豊富な人たち(39.2%)

強くパニック購買する人たちは、2度の機会にわたり通常時より大幅に買い溜めを行った人たちで、5つの消費者群のうち、購入量が最も多かった人たちになります。

また、弱くパニック購買する人たちは、強くパニック購買する人たちほどの購入量はありませんが、比較的似た傾向を示した人たちです。

合理的に買い溜める人たちは第1波ではあまり多く買いませんでしたが、第2波で多く購入した人たちです。

また、消費者の大部分を占めていたのは、通常より少し多くの備蓄をした人たちであり、この人たちは購買経験が豊富な人たちでした。