消えゆくヨーロッパの戴冠式

以下に、現代ヨーロッパの即位儀礼について簡潔に解説しよう。

まずは、日本に次いで君主制の歴史が古いとされるデンマークである。この国では、立憲君主制の導入に伴って戴冠式が廃止された。最後に行われたのは1840年のクリスチャン8世の時だ。王室公式webサイトは、今日の即位儀礼についてこう説明している。

「1849年の制憲以来、デンマークでは戴冠式や聖油塗布は行われていない。代わりに首相がクリスチャンスボー宮殿のバルコニーから新しい王を宣言する」

「北欧」つながりということで、スウェーデンに続こう。この国では1873年に挙行された国王オスカル2世の戴冠式が最後のものとなっている。

そのスウェーデンから1905年に独立したノルウェーでは、新たに国王として迎えたホーコン7世の戴冠式を1906年に挙行したが、これが最後の事例となっている。王室公式webサイトには次のように説明がある。

「1908年、非民主的かつ時代錯誤だとみなされるようになったため、戴冠式を必須とする規定が憲法から削除された」

明文規定で禁止されたわけではない以上、国王が望めば不可能ではないという考え方もあるようだが、以降の歴代国王は代わりにニーダロス大聖堂で「祝祷式」を受けている。

戴冠式は「形式主義的で金食い虫」

これまでに述べた国々とは比較にならないほど早くに戴冠式を放棄したのがスペインである。最後に戴冠式がおこなわれたのは、まだ統一国家を樹立できていない中世カスティーリャ王国の頃だ。

スペイン憲法は新しい国王に対して、憲法順守などを国会で宣誓することしか即位儀礼としては求めていない(第61条)。そして王冠はこの時、王権のシンボルとして置かれるのみである。

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比較的新しい王国には、戴冠式を挙げたことがない国が珍しくない。現存する国としては、19世紀に建国されたオランダとベルギーがそうだ。

オランダの王冠は、新国王がアムステルダム新教会における即位式に臨む時に、その場に安置されるだけのものである。ベルギーに至っては、王冠がそもそも存在すらしていない。

ヨーロッパには他にもルクセンブルク、モナコ、リヒテンシュタインなどの小さな君主国があるが、もはや戴冠式の有無は言うまでもないだろう。

王侯貴族の豪華絢爛けんらんなイメージ形成に大いに寄与しているであろう戴冠式という即位儀礼は、19世紀にはすでに「あまりにも形式主義的で、金食い虫で、時代遅れ」だと考えられるようになった。そしていまや、欧州ではイギリスにしか残っていない「絶滅危惧種」になってしまったのである。