岐路に立たされる環境政党

一方で、EU各国の気候・エネルギー・環境相のポストは、実態として環境政党の強い影響下にあるため、彼らは性急な環境対策の追及を求める。

そのことが、冒頭で述べたG7の環境相会合からもうかがい知れる。また環境対策で世界のイニシアチブを取りたいEUの欧州委員会も、高めの目標を設定し、その早期での実現を重視している。

環境対策のスピードが速すぎることへの反発が有権者の中に広がっているにもかかわらず、環境政党や欧州委員会がそのスピードを緩めることなく突き進もうとすれば、有権者の反発はさらに強まることになるだろう。そうした有権者の声に向き合わなければ、環境政党は2024年の欧州議会選で、議席数を大幅に失いかねない。

他方でヨーロッパ各国の環境政党は、環境対策のスピードを緩めることで、環境を最優先すべきという支持者の声を失う恐れもある。環境政党は一般的に左派色が強いが、よりマイルドな環境対策に主張を変化させると、他の左派政党との差別化が困難になる恐れも大きくなる。

ヨーロッパの環境政党は今、大きな岐路に立っているといえよう。

写真=iStock.com/Wirestock
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新たなEU不信につながる恐れも

概して、ヨーロッパの有権者は環境意識が高い。環境対策を進めていくこと自体は、政治的な立場を超えたコンセンサスでもある。一方で、EUや環境政党が描く環境対策に対するスピードに不満を持つ有権者も増えてきている。EUや環境政党が環境対策を進めていきたいのなら、そうした声を拾い、折り合いをつけていく必要がある。

にもかかわらず、EUがハイスピードでの環境対策を堅持しようとするならば、有権者の間で強い反EU感情が高まる事態となるだろう。すでにヨーロッパ各国は、ロシアのウクライナ侵攻に伴い、エネルギー危機の状況にある。そうした中で、ハイスピードな環境対策を追い求めること自体、本来ならば無理があるのではないか。

ヨーロッパの政治に対立と妥協はつきものだ。言い換えれば、対立はするが、最終的には妥協が成立するのがヨーロッパである。環境対策の在り方に関しても、やはり対立が生じた。その意味では、今後も関係者の間で強い摩擦が生じることになるだろうが、より現実的な方向に環境対策が妥協の方向に向かうものと期待される。

日本としても、そうしたヨーロッパの「揺り戻し」を念頭に、環境対策を進めていくことが得策だろう。G7の環境相会合で石炭火力発電の在り方に配慮する現在の姿勢は正しいといえる。地球温暖化防止という山頂を目指すに当たっては、天候や地形の状況に応じて臨機応変にルートを見直すことこそ、最も現実的な攻略方法であるはずだ。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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