「近隣の別荘地は富士急行の3倍以上」
その後、20年ごとに契約更新が行われてきたが、2017年からの新契約による賃料も当初とまったく変わらず、東京ドーム94個分が年額で約3億円のまま。地元不動産業者によれば、
「これは異様に安い価格。実際、別の地元業者が独自に造成・分譲した近隣の別荘地は富士急行の3倍以上の評価額。しかも、そもそもが随意契約だから、他社が入り込む余地がない。長年、独占的に巨利を得てきたのです」
山中湖畔といえば都心からも2時間ほど、富士山の雄大な姿が間近に見える絶好の避暑地で、三島由紀夫も『豊饒の海』などいくつかの作品で舞台にするなどゆかりがあるため、現在は三島由紀夫文学館も建つ。またゴルフ場隣接の別荘地は石原裕次郎などかつての日活スターがこぞって利用したことから「日活村」とも呼ばれるほどの人気リゾートだ。
それだけに、県民の一部からも以前から疑問の声が上がっており、2017年に新契約が結ばれた直後、県内に住む住民が県を相手に、
「県から富士急行への賃料年額3億円は不当に安く、県は賃料を増額する措置を怠ったため、長年の適正賃料との差額を歴代3人の知事と富士急行に請求せよ」
という訴訟を起こしたのである。
長崎知事が従来の方針を180度転換
この住民訴訟に、当初県側は「契約は正当だった」と反論していた。ところが2019年の知事選で新たに長崎知事が当選すると、知事主導で県の方針が大転換。住民の主張通り「確かに賃料は安すぎて違法であるから、契約は無効だ」と認めたのである。
そして、これに驚いたのが富士急行。慌てて県側に「既存の賃借権の確認を求める」訴訟を起こし、先述の通り2021年7月、県側が反訴の形で富士急行に対し、適正賃料との差額をさかのぼって請求する損害賠償訴訟を起こしたのが、今回の判決なのだ。
ちなみに、キッカケとなった住民訴訟は、県が富士急行に反訴をしたことでほぼ住民側の主張が容れられているから、という点を主な理由として「訴えの利益がなくなった」と却下されたが、住民側は不服であるとして東京高裁に控訴しており、現在も争われている。
364億円もの「県民の利益」が失われている
では、判決はどう下されたのか。
県側の請求は、地方自治法に「適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けてはならない」との定めがあることに鑑み、当該の土地に対する鑑定評価をやり直した結果、過去20年間の364億円が損害賠償金の総額だが、印紙代などを考慮してまずはその一部の93億円を請求するというもの。
対する富士急行側の主張は、長崎知事以前までは県からの値上げ請求はなかったのだから契約は正当だ、というもの。