憲法9条の議論より国防の具体的議論を

情緒不安定な金正恩を、外からコントロールすることは難しい。日本として大切なのは、最悪の事態を想定してどのように備えるかだ。

ところが、肝心のJアラートが役に立たない。22年11月3日午前のミサイル発射で、政府は7時50分、宮城、新潟、山形の3県を対象にJアラートを発信した。しかし、2回目のJアラートでは、7時48分に日本列島上空を通過と発信。これでは通過後に1回目のJアラートが出たことになる。実は政府が察知したのはミサイルとは別の飛翔体で、その飛翔体も日本列島を通過していないと訂正されているが、その混乱ぶりも含めて、Jアラートがまともに機能していないことが明らかになった。

残念ながらミサイルの迎撃は難しい。迎撃できないとしたら、どうするのか。軍事的には、発射される前に先制攻撃することが有力なオプションになる。

しかし、日本は憲法9条の制約があって先制攻撃ができない。そこで自民党が新たに使い始めたのが「反撃能力」というワードである。相手の攻撃に対して反撃するのは自衛権の行使であり、国際法上も認められている。攻撃されることがわかっていて先に反撃するのは、先制攻撃ではなく、防衛のための反撃であり、憲法上問題ないという理屈である。

自民党はこれまでも伸び縮み式のゴムのように憲法解釈を変えてきた。自衛隊しかり、集団的自衛権しかり。今回も自民党のお家芸で、実質的な先制攻撃を可能にしようとしているわけだ。

どのような場合に反撃能力の行使を認めるのかという議論は必要だが、先に攻撃する以外に北朝鮮のミサイルを止める方法はない。自民党長老には専守防衛論者が少なくないが、その中でこうした議論が出てきたことは一歩前進ととらえたい。

ただし、憲法解釈を変えるだけでは不十分である。そもそも日本は反撃能力を持っていないのだ。

日本政府は、2020年、「12式地対艦誘導弾」能力向上型の開発を決定した。従来型の射程は約200キロ。九州に配備しても北朝鮮に届かない。しかも韓国上空を飛ばすと韓国からの反発が予想される。本州のどこかに配備するとすれば長射程化は必須。開発中の能力向上型は、射程1000キロ超、最終的には極超音速誘導弾を開発して2000~3000キロを目指すという。

しかし製造メーカは、MRJ計画に失敗し、新型ロケット「H3」の開発を遅延させている三菱重工業。北朝鮮の動きを察知していざ反撃しようにも、飛ばすミサイルがなかったという事態は十分に考えられる。