適正な為替レートに比べて大きく円安

実質為替レートについてのもう一つの考えは、ある時点において世界中で「一物一価」が成立するような為替レートのことだ。これについては、OECDが計算を行っている。それによると、2021年における円の購買力平価は、1ドル=100.4円である。

同様の考えに基づいて、「ビッグマック指数」というものが計算されている。これは、ビックマックという一つの商品だけを取り出して、世界中で一物一価が成立するためには為替レートがどれだけになる必要があるかを計算し、実際の為替レートがそれとどのような比率になっているかを計算したものだ。

2022年7月の結果を見ると、日本のあるべき為替レートは1ドル=75.7円だ。実際のレートは1ドル=137.9円だったので、本来あるべき値の-45.1%でしかないということになる(この45.1が、日本の「ビッグマック指数」だ)。

このように、あるべき為替レートの評価の方法はいくつもある。どの方法をとったとしても、現在の現実の為替レートが本来あるべき値よりも大きく円安になっているということは共通している。

OECDの購買力平価と現実の為替レートと対照して見ると、長期的にはほぼ同一のトレンドで変動している。このことから考えれば、最近の為替レートは、政策によって本来あるべきレートから大きく円安になってしまっているということができる。

つまり、金融政策が為替レートという価格を大きく歪めており、本来あるべき値よりも大きく円安にしているのだ。

価格は適切な資源配分を実現するためのシグナルである。その中でも為替レートは重要なものだ。その価格を行き過ぎた金融緩和政策によって大きく歪めたために、日本の資源分配は大きく歪んでしまった。先に述べたように、技術革新が進まなくなってしまったことが、その最も重要な結果なのだ。

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補助金依存体質になった日本の製造業

リーマンショック後ごろから、製造業の特定の業種に対して政府の補助策が行われるようになった。

企業救済を目的とする官製ファンドとして、2003年に経済産業省が主導して「産業再生機構」が作られた。これには、銀行や民間企業も出資した。このファンドは、2004年に、カネボウやダイエーの再建にかかわった。

09年には、「産業革新機構」が設立された。将来性がある企業や企業の重複事業をまとめることによって、産業に革新をもたらすのが目的とされた。

DRAMを製造するエルピーダメモリや、LSIを製造するルネサスエレクトロニクスなどが設立された。目的とされたのは業界再編成であったが、それに失敗しただけでなく、汚職をも生んだ。

その後、日立、ソニー、東芝の液晶事業を統合したジャパンディスプレイへの出資が行われた。シャープの再建も、ここが中心で進められてきた。しかし、いずれも失敗した。また、シャープやパナソニックの巨大工場建設に関しては、巨額の補助金が支出された。

さらに、2010~12年ごろの円高期には、地デジ移行によるテレビ受像機の新規需要創出策や、エコカー補助などの露骨な製造業救済策が行われた。

これらは、衰退した日本の製造業を政府が主導してまとめ、補助を与えることによって再生させようとするものであった。ただし現実には、それらは成功せず、巨額の赤字を生んで破綻したのだ。