日銀はなぜ金融緩和をやめないのか?
本稿の冒頭で述べたように、アメリカの金利引き上げに対処して世界の中央銀行が競って金利を引き上げたなかで、日本銀行は金利の抑圧を続けている。
「日銀がなぜ政策転換をしないのか?」と問われることがあるが、金利引き下げによる円安が日銀のもともとの目的であったのだから、それを続けるのは当然ということになる。
しかも、円安によって利益を上げている企業がある。実際、上場企業の2022年9月中間決算は、円安によって空前の増益だ。純利益は、前年同期を約1割上回り、中間期として過去最高になる。
運賃が高止まりしているため、海運業では、円建ての利益が増加した。
商社も、資源・エネルギー高と円安のために、過去最高益を更新する企業が続出した。大手商社7社のうち6社が過去最高益を更新した。三菱商事は、原料炭や鉄鉱石などの価格上昇により、1兆300億円の利益を確保する。三井物産も、9800億円を見込む。増益要因のうち1080億円が円安効果だ。
非製造業全体では、純利益は30.1%の増加となった。
製造業でも円安を主因に、125社が業績予想を上方修正した。
トヨタ自動車では、円安のため、売上高が前年同期比14.4%増加して17兆7093億円に達し、過去最高を更新した。ただし、純利益は23.2%減の1兆1710億円、営業利益は34.7%減の1兆1414億円だ。これは、原材料価格の高騰などによる。
ここで重要なのは、以上は上場大企業だということだ。零細企業は原価高騰を転嫁できず、営業利益がマイナスになっている企業が多い。大企業と零細企業の差は、これまでもあったのだが、今回には、それがさらに明確な形で生じている。
購買力は2010年の58%にまで低下
現在の為替レートが適正なものかどうかを判断するためには、購買力平価を見るのがよい。
購買力平価には二つの種類がある。
第一は、ある時点の為替レートが適切なものであったと考えて、それ以外の時点の為替レートを評価するものだ。
例えば、ある時点で1ドル100円であり、これが何らかの理由で「適正な」為替レートだと判断されるとしよう。
つぎの年に、日本では物価や賃金が上昇せず、アメリカでは10%上昇したとする。仮に為替レートが1ドル100円のままであれば、日本人は1年前と同じものをアメリカで買うことができない。それができるようになるためには、円が10%増加して、1ドル90円程度になる必要がある。これが、前年を基準とした購買力平価だ。
仮に、現実の為替レートが1ドル120円であるとすれば、購買力平価に比べて、90÷120=75%だけ円安になっていることになる。これが、「実質為替レート」と呼ばれるものだ。そして、ドルだけでなく、さまざまな通貨との実質為替レートの加重平均を「実質実効為替レート」と呼ぶ。
このような購買力平価は、BIS(世界決済銀行)が計算している。2010年を基準とする円の実質実効為替レートは、2022年9月で57.95だ。つまり、購買力が2010年の57.95%にまで低下している。