オンライン識別子を個人情報とみなしていないため、サイト運営者が本人に無断で利用者データを広告会社などに提供しても違法にはならず、野放し状態になっているのだ。

そこで、総務省は、個人情報保護の枠組みを世界的な潮流に合わせようと、法的規制に乗り出したのである。

「総務省接待事件」の最中に有識者会議立ち上げ

検討の中心となった有識者会議「電気通信事業ガバナンス検討会」(座長・大橋弘東京大学公共政策大学院長)が立ち上がったのは21年5月。

衛星放送関連会社の東北新社やNTTによる「総務省接待事件」で、総務省ナンバー2の総務審議官から情報通信部局の課長級まで軒並み更迭されるという総務省始まって以来の大混乱の最中だった。

情報通信行政に精通したメンバーを欠く中、いわば「素人集団」ともいえるかじ取りに、有識者会議の先行きを不安視する声もあったが、接待事件の嵐が収まるのを待っている余裕はなかった。

「検討会」はもともと、直前に起きた「LINE」の利用者情報が中国の関連会社から閲覧可能になっていた問題への対応を検討するためにスタートしたこともあって、後々、総務省を揺るがす重大事態に発展するとは予想していなかった節がある。

ところが、「検討会」の議論は、次第に「デジタル時代の個人情報のあり方」というそもそも論にシフトしていった。

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総務省は規制策を「密室」の議論で進めたが…

そして11月、「検討会」は、これまでの個人情報保護のルールを抜本的に変えてしまう画期的な報告書案をとりまとめた。

まず、規制対象とする個人情報の範囲を、「クッキー」などのオンライン識別子にひもづけられる通信履歴や閲覧履歴、位置情報、アプリ利用歴などを含め、幅広く定義。そのうえで、EUと同様に、「クッキー」など直接個人の特定につながらない情報を第三者に提供する場合、事前に利用者本人の同意を得るか、事後でも利用者の求めにより情報提供を停止できる仕組み(オプトアウト)を義務づける内容を骨子としたのである。

この間、「検討会」は基本的に非公開で、議論の詳細が外部に伝わることはなかった。「密室」の議論だったのである。それは、ネット利用者保護の大転換にあたって、利害関係者の口出しを封じ込めようとの思惑があったからにほかならない。

だが、「検討会」の議論を伝え聞いた国会担当者は「内容が内容だけに、自民党関係者にはきちんと伝えておかなければ、法案になったときに通るものも通らなくなる」と危惧。夏の終わりごろには「一刻も早く経過報告をした方がいい」と警告していたという。

経済界、自民党から大反対で形ばかりの「利用者保護」に

案の定、報告書案が出回るやいなや、経済界から「データの収集が制限され、ビジネスの制約になる」と反対する声が一斉に上がった。