世界で広がる分業化にも対応できず…

2000年代に入ると、アップルは米国では新しい機器の設計・開発に集中し、その上で世界各国から優秀な部品を集めて台湾の鴻海ホンハイ精密工業傘下の中国企業であるフォックスコンにユニット組み立て型の生産を委託する体制を確立した。国際分業の加速は米国のIT先端企業の事業運営の効率性向上に決定的な影響を与えた。

また、中国は安価かつ豊富な労働力を武器にして世界の工場としての地位を確立した。一時は中国がデフレを輸出していると言われる状況も出現した。台湾では、米国のアップルやエヌビディアなどが設計・開発したチップの生産を台湾積体電路製造(TSMC)が受託し、世界最大のファウンドリーの地位を揺るぎないものにしている。その一方で、1980年代半ばに世界トップシェアを誇ったわが国の半導体産業は環境の変化に対応できず、競争力を失った。

構造改革よりも雇用の保護を優先した結果…

本来であればバブル崩壊後に政府は迅速に不良債権処理を進め、成長期待の高いIT関連などの先端分野にヒト、モノ、カネの生産要素がダイナミックに再配分される経済環境を整備しなければならなかった。しかし、わが国ではそれが難しい。政府は構造改革の推進よりも雇用の保護を優先し、1997年度までは公共事業関係費を積み増した。

しかし、インフラ整備が一巡したわが国において公共事業を積み増したとしても、波及需要の創出効果は限られる。ハコモノの建設や道路の整備といった公共事業の増加は、潜在成長率の持続的な回復にはつながらなかった。その後は現在に至るまで、一時的に政策金利が引き上げられた時期を挟み、ほぼ一貫してわが国はゼロ金利政策をはじめとする金融緩和によって景気の持ち直しを目指している。

金融緩和の本質は、需要の前倒しにあるといえる。金利低下によって消費者や企業経営者の心理は一時的に上向き、モノやサービスの購入や設備投資は増える可能性がある。それによって政府と日銀は、いずれ景気は回復すると考えた。

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