構造改革を怠った“つけ”が顕在化している
別の目線から考えると、労働市場の流動性向上など抜本的な改革は先送りされ、経済の実力向上が難しい状況が続いている。特に、金融システム不安の発生後は国内経済の停滞が深刻化した。企業は生き残りをかけてコストを削減しなければならなくなった。
その一つとして雇用が削減された。雇用喪失の受け皿として企業は非正規雇用を増やした。正規、非正規雇用者の所得格差などは拡大し、内需は落ち込んだ。2004年には人口がピークをつけ、その後は少子化、高齢化、人口減少が3つ同時に進み経済の縮小均衡化が加速している。さらに近年ではコロナ禍の発生によって動線が寸断されて経済成長率が下押しされた。
コロナ禍によって、わが国のデジタル化の遅れが深刻であることも明確になった。その上にウクライナ危機が発生して天然ガス、原油などのエネルギー資源や、木材、小麦や魚介類などの食料品などの価格が上昇している。それによって企業のコストは増加する。その一方で、個人消費は弱く、販売価格へのコスト転嫁は難しい。構造改革を先送りしたつけは大きい。
“悪い円安”が進むと何が起きるのか
さらなる円安の進行によって、わが国経済への負の影響は増えるだろう。わが国経済の実力凋落を深刻に考える主要投資家は増えている。そのため、外国為替市場では円の先安感が高まり、政府・日銀の口先介入にもかかわらず129円台までドル高・円安が進んだ。日米の金融政策の方向性の違いから内外の金利差が拡大していることも円安圧力を強める補完的な要素だ。当面は不安定な動きを伴いつつ、円安の流れが一段と鮮明化する可能性が高い。
世界経済の供給制約の深刻化を背景とする資源や食糧などのモノやサービス価格の上昇と、円の先安感の高まりが掛け合わされることによって、わが国の輸入物価はさらに上昇するだろう。資源がないわが国にとって、その打撃は過小評価できない。
一つのシナリオとして、企業はエネルギー資源や化成品などの価格上昇に直面する。企業のコストは増加基調をたどり、収益は圧迫される。徐々に価格転嫁を余儀なくされる企業が増え、国内の個人消費は追加的に落ち込む展開が予想される。需要創出のために新商品の開発体制を強化する企業もあるが、そうした動きは一部にとどまる。