プーチンやゼレンスキー動画の「ディープフェイク」
3月中旬、ウクライナのゼレンスキー大統領がナチスが使用していたマークのTシャツを着ていると主張するSNSの投稿が拡散された。ところが、いくつかのファクトチェック団体の調べで、ナチス・ドイツで勲章として使われた鉄十字のような形のマークはウクライナ軍の公式なエンブレムであり、ナチスとは全く関連はなかったとわかった。こうしたSNSの投稿は、ロシア側の「ウクライナ軍はネオナチ」の主張に合致させようとしたようにも思える。
また、ここ数週間、文章や画像だけでなく、ディープフェイクと言われる巧みに加工された動画も増えている。
3月16日にフェイスブックとYouTubeで確認された動画では、ウクライナのゼレンスキー大統領が、いつもとは少し違う声のトーンで、ウクライナ軍に「武器を置いて家族の元に帰りなさい」とウクライナ語で語り掛けていた。ロシアに降伏することを意味するかのような動画だ。しかし後に、これは偽動画だったことが判明している。ハッカーがウクライナ24というテレビ局のウェブサイトを書き換え、動画から切り取った静止画を使って作られたといわれている。
一方、同時期に、ロシアのプーチン大統領が「ロシアが降伏した」と伝える動画もSNS上で出回っていた。
この動画の中で、プーチン大統領は「ロシア兵よ、生きているうちに武器を捨てて家に帰れ!」と語りかけている。この動画についての調査を行ったLead Storiesというファクトチェックの団体によると、このビデオは、プーチン大統領の2月21日の演説のビデオを加工し、彼自身が話しているように見せかけたものだったという。アメリカ国務省の報道官は、Lead Storiesに対し、「ロシアが戦争をやめる兆候はない」と語ったそうだ。
しかし、これらの動画を誰がどのような目的で作成し、拡散したかは明らかにはなっていない。
中国では「侵攻」ではなく「特別軍事行動」
ロシアやウクライナ以外で、新たな論調が付加され、拡散されることもある。
中国はウクライナ問題に関しては、基本的に親ロシアだ。このため、中国で広がっている論調は圧倒的にロシア寄りだといわれている。英語に訳された中国語の記事でも、invasion(侵攻)とは言わず、ロシア側が使用している「Special Military Operation(特別軍事行動)」という表現を使っているようだ。
「中国の政府高官は、たとえ偽情報だとしても、自国に有利になるようなものならば、かなりの頻度でリツイートして拡散している」と話すのは、香港大学ジャーナリズム・メディア研究センターの鍛治本正人副教授だ。鍛治本副教授は、香港大学のニュース情報リテラシーの教育者ネットワーク「ANNIE」(Asian Network of News and Information Educators)と協働でファクトチェックサイト、アニーラボ(Annie Lab)を運営している。