なるほど、正面から巨大IT企業と戦ってプラットフォームになるのは、いくら技術やノウハウ、蓄積したデータを持つ企業であっても極めて難しい。だが、車内という特殊な環境であればこそ、日本の一企業にも望みは残されているのかもしれない。

年々拡大してきたディスプレー、多機能のタッチパネルを無くし、音声という全く別次元の戦いをすれば、市場を広げることができ、GAFAにだって勝ち目もある――。画面のないカーナビと壮大な目標は、会社の生き残りをかけた決意表明と言える。

完成車メーカーが純正品として組み込んだカーナビとの競合もあるだろう。だが矢原社長は「完成車メーカーは今、電動化開発に注力しています。ドライバーへの新サービスの提供にはパイオニアのPiomatixを活用してほしい。そうすれば完成車メーカーは電動化開発に集中できます。協業関係を築きたい」と期待をかける。

最近の日本企業にはあまりみられない野心的な戦略

「カーナビをiPhoneのようにする。車専用のiPhoneですね」

車の中なら決して画面は必要ないと気づいた矢原社長は、笑顔で語った。

経営再建から3年。2020年3月期、21年3月期と2期連続の黒字決算を何とか果たしたものの、新型コロナの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻などで先行きは不透明となり、危機感は増している。

そんな状況下で誰もこぎ出してはいないブルーオーシャンに挑戦し、巨大なサイバー企業を敵に回してプラットフォームをつくろうというのは、最近の日本企業にはあまりみられない野心的な戦略だ。

NP1の発表以来、ユーザーや自動車業界からの手応えはあるという。新市場での緒戦はまずは順調に進んでいるのかもしれない。

撮影=プレジデントオンライン編集部
NP1の発表以来、ユーザーや自動車業界からの手応えはあるという。

だがCASEの時代にクルマの中でのさまざまな情報サービス事業はGAFAなどのサイバー企業ばかりか、日米欧の大手自動車メーカーもクルマの魅力アップのために激しく開発競争を繰り広げ、合従連衡が進む分野だ。

その最たるものはソニーとホンダとの業務提携だろう。

いつ何時ブルーオーシャンはレッドオーシャンに転じるかもしれない。パイオニアが思い通りの果実を得るには厳しい難路を走り切らねばならない。

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