アシモはできても「使えるロボット」はない

だが、2011年の東京電力福島第一原発事故が、日本のロボット開発に見直しを迫る。放射線量が高く、人間が近寄れない危険な場所にロボットを送り込んで事故の様子を確認する必要がある。しかし、事故直後、日本にはすぐに使えるロボットがなかった。米国やフランスなど海外から急遽導入したが、「ロボット大国のはずなのに、なぜ⁉」と、批判や疑問が噴出した。

実は日本でも原発作業用のロボットは作っていた。1979年の米スリーマイル島原発事故や、99年の茨城県の核燃料加工施設での臨界事故後、政府の主導で開発した。だが、使う体制まではできていなかった。研究開発が目的であり、現場で操作法を訓練したり、ロボットの耐久性を上げたりするなど、ロボットも人間も日々鍛えていなかった。たまに防災訓練で動かす程度では緊急時に動かせない。

欧米のロボットが紛争地域の地雷除去、爆弾処理などで経験を積んで、原発事故へ対応しているのに対し、日本ではロボットを社会で役立てようという意識が乏しかった。

アシモが登場する以前から日本はロボット研究が盛んで、国民もロボット好きだ。1970年代、工場で働く人たちが作業用ロボットを「百恵ちゃん」など、当時の人気歌手の名前をつけて呼んだように、機械に親しみを持ち、擬人化する。19世紀の産業革命時に、「機械が仕事を奪う」と、英国の職人たちが機械を壊した「ラッダイト運動」とは対照的だ。そうした日本的メンタリティーも、影響しているのかもしれない。

二足歩行がビジネスの“足枷”に

こうした「ロボット愛」にとどまらず、社会で使われるロボットに育てていくことが大事だ。今、国内外の目は、ICT(情報通信技術)の活用によってロボット技術をいっそう向上させる方向に向かっている。

昨年9月、ホンダは2030年代の実現を目指し、自社のコア技術を生かして取り組む3つの新領域を発表した。その一つに、アシモで得た技術を生かす「アバターロボット」が入っている。人間が自分の分身ロボットを操作して、その場にいなくても作業や体験ができるというものだ。その指にはアシモで培われた技術が使われている。だが、二足歩行技術は使われない。二足歩行の知見は、車の横滑り防止措置などに生かしているそうだ。

ICTやAI(人工知能)によって、ロボットは自ら情報を収集し、考え、動くようになる。米グーグルなど「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業も、ロボットに参入している。さまざまなビッグデータを生かす土台として力を入れる。