「戸籍まで無くしてしまうとは……」
こうして2005年3月、国会で民法改正案が採択され、戸主制度は全面的に廃止されることになった。また、すでに違憲判決が出ていた「同姓同本禁婚制」も諸外国と同じような「近親婚禁止」へと正式に変更された。さらに身分登録制度としての「戸籍」も廃止となり、「個人登録制」に変わることになった。
「本貫」とは、「姓」とセットで捉えられるもので、一言でいえば、韓国人を父系ルーツ(始祖の出身地)によって分類するものだ。たとえば同じキム(金)という姓の人でも、本貫が異なれば同じ一族(ファミリー)とはみなされない。「同姓同本禁婚制」は、同じ姓で同じ本貫の人同士の結婚を禁止する法律で、1997年に違憲判決が出ていた。
時代にそぐわない戸主制度が廃止になることは、大方の予想通りだったが、戸籍まで無くしてしまうとは……。大胆な決断に驚いた人が多かった。当時の議論の中では、「戸籍から戸主をなくして、日本のような筆頭者という形にすればいい」という意見も出ていたのだ。
「日本のような男女同権の戸籍制度に」という戸籍擁護派の人々は、「韓国には家族主義の伝統があるから、欧米のような個人登録はそぐわない」とも言っていた。しかし韓国政府の選択は個人登録制だった。「戸籍法」に代替する法律として「家族関係登録等に関する法律」が、2008年1月1日より施行された。
「家族単位」から「個人単位」へ
こうしてスタートした新たな「家族関係登録制度」では、個人ごとに家族関係登録簿が作成されている。従来の「戸籍」と新たな「家族関係登録」の大きな違いは、それが家族単位の登録か、個人単位の登録かということだ。
「戸籍」の場合はまず、その「家族の本籍地」が記入されていて、次に家族の代表である「戸主」(日本の場合は「筆頭者」)に関する記載がある。本人氏名、両親の氏名、生年月日、性別、本貫、住民登録番号、その後に出生や婚姻等の記録が続く。次に配偶者について同様の記載があり、その下に子どもたちに関する記載が出生の順に続く。養子である場合はその件もそこに記載される。そして、この戸籍謄本はこの家族の誰にとっても同じものであった。妻が請求しても、子どもが請求しても、同じ「謄本」である以上、同じものが発行された。
しかし新しい「家族関係登録簿」は違う。請求する人によって、それぞれ個別の内容となる。まず「家族の本籍地」なるものは消滅する。たしかに戸籍=本籍みたいなものだから、戸籍がなくなれば本籍地もなくなる。代わりに「登録基準地」という住所記入欄がある。これは家族全体の本籍地ではなく、個人が任意の住所を記入する。日本もそうだが、もともと「本籍地」は実際の居住地とはなんの関係もなく、変更も自由。そもそも意味があるものではない。