日米首脳会談に見える「日本外交の方向転換」

【佐藤】ここまでの認識は共有していると思いますが、では日本のエリートが、どれだけこの状況を理解し、行動しているか。日本の経済エリートは時代に対応できておらず、半ば惰性で動いていると言わざるをえない一方、政治エリートは敏感に変化を感じ取っているように私の目には映ります。実際、日本の政治エリートは、今までにないような対応をしている。たとえば2021年4月の日米首脳会談などは、日本外交の方向転換が現れた好例です。

会談後の共同声明では、「国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有」したうえで「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を目指す」と記されました。台湾海峡について明記されたのは、日中国交正常化前の1969年の日米首脳会談以来のことです。ただ、アメリカの本心としては、もっと強く「台湾」ということを明記したかった。それが「台湾海峡」となったのは、日本側がそのように押し込んだからです。

台湾海峡とすれば、これは航行の自由の問題となり、中国の「1つの中国」路線とはギリギリぶつかりません。アメリカに強く言われたことに従うというのが今までの日本外交でしたが、今回は押し切った。アメリカとは別の1極としての存在感をますます強めている中国を意識した結果でしょう。

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中国にとっては台湾よりウイグルのほうが重要な問題

【佐藤】そしてもう1つ、中国について理解しておかなくてはいけないのは、いかにウイグルが中国にとって大きい問題か、です。

中国にとって台湾は「今あるものにプラスできるかもしれない」、実効支配できる領土を拡大するという問題に過ぎません。いってしまえば、強く出て台湾が取れたらラッキーという話です。しかしウイグルは「今あるものからマイナスされてしまうかもしれない」という、領土保全の本質に関わる問題です。ウイグルで独立運動が起こり、今以上に本格的に国際問題化でもしたら、領土の一部を削り取られかねない。つまり中国にとって、実は「攻め」の問題である台湾よりも、「守り」の問題であるウイグルのほうがはるかに深刻なのです。その点、日本のメディアは比重を間違えていますね。本当は台湾よりもウイグルのほうを大きく扱わなくてはいけない。

この問題においても、日本は、欧米を主とした国際社会と一線を画しています。欧米は、国際秩序のゲームチェンジャーになろうとしている中国を牽制すべく、こぞってウイグル問題で中国を非難し、制裁をかけています。しかし、その中に日本はいない。G7で唯一、中国に制裁をかけていないんです。しかも先の日米首脳会談で、それをアメリカに認めさせている。これは異常な外交です。