「当たり散らすのもいれば、放心状態になるのもいる」
録音したラジオのニュースを午後に流す際、死刑執行に関する内容もそのまま放送され、新聞も同様に読むことができる。
法務省関係者は「被収容者の心情の安定などを考えて、死刑関係のニュースはカットしたり、新聞を黒塗りしたりしていた時期もありましたが、現在は行っていません。法務省として事実関係を公表している以上、そうしたことをする必要がないとの判断です」と説明するが、執行後のフロアは異様な雰囲気に包まれる。
江本さんが続ける。「すごいですよ、ピリピリして。(確定死刑囚たちが)報知器を押して刑務官を呼び『今日、あったんでしょ?』と聞くんですよ。もう、すごい剣幕です。でも、刑務官としては何も言えない。そうこうしているうちにニュースが流れて、はっきりと知ることになり、一気に重苦しい空気になる。
刑務官に当たり散らすのもいれば、放心状態になるのもいます。(死刑執行から)2日間は、いつもフロアを担当している刑務官のほかに、課長や係長も詰めて、平静を保つように努めていました」
検察庁を通じて死刑執行の命令が届いた拘置所では、執行当日まで緊張に包まれる。死刑執行施設のある拘置所の元幹部が、その模様を振り返った。
「執行に携わる刑務官を選ぶことや、対象となった死刑囚の動静を注意深くチェックすることが、まず必要となります。連行から執行の言い渡し、遺言の作成などを経て執行まで、いかにスムーズに行っていくかが最大の課題です。死刑囚本人に、余計な恐怖や苦しみを与えることは避けなければなりません」
ロープは身長や体重から計算して、床上30センチに調整する
立ち会い役の幹部以外で、執行に直接携わる刑務官は6〜7人。元幹部によると、勤務態度が優秀なベテランと若手が選ばれ、妻が妊娠中であったり、家族に病気の者がいたりする場合などは対象から除かれるという。
元幹部は「明文化されているわけではないが、身内に何かあった場合に『自分が死刑に関わったからではないか』と刑務官に思わせないため、慣例的な配慮をしている」と明かす。
執行に携わることになった刑務官は、刑場の掃除や確定死刑囚の首にかけるロープの確認、目隠しといった「必要品」の準備などに追われる。ロープは、確定死刑囚の身長や体重から計算して、執行時に地下の床から30センチほどの地点に足先が来るように調整される。これとは別に、処遇部長など拘置所幹部は、棺桶の手配や教誨師への連絡、連行時の警備態勢のチェックなどを行う。
執行に向けて、拘置所当局は急ピッチで準備にあたる。執行当日の朝、対象となる確定死刑囚の房に向かうのは、教育課長ら幹部に加え、「警備隊」と言われる警備専門の屈強な刑務官たちだ。刑場への連行の言い渡しを受けた確定死刑囚が取り乱して暴れたりした際は、警備隊員が制圧にあたり、有無を言わさず連行していくことになる。
「言ってみれば、拘置所内の汚れ役ですよ。執行の日に、房から嫌がる死刑囚を無理矢理引きずり出して、刑場まで運んでいくなんて誰もやりたくない。警備隊員も『頼むからおとなしく刑に服してくれ』と、心の中では思っているんです」
元幹部は苦々しい表情を浮かべながら、そう話した。