ひとつの地域だけで年間250人が強制中絶された

こちらは、なぜこういう学術書が批判されるのか、皆目分かりません。ウルムチの本屋へ行っても、この三冊は売っているはずがない。そこで、この三冊を批判する本(『「ウイグル人」等三冊の本の問題に関する討論会論文集』)を購入しました。

「こんな本は買いたくないな」と思いながら買ったのですが、中国一流の御用学者たちが20人も動員されて、大々的に批判を展開しています。思想的にも、政治的にも滅茶苦茶だと思いました。

トルグン・アルマスのような本を書けば、すぐに「民族分裂主義者」と見られてしまうんです。1960年代の内モンゴルでも、まさに同じことが起こりました。

【于田】1990年4月に、「南新疆」のアクト県バリン郷という村で、中国当局による「産児制限」「計画出産」に反対する歴史的な武装蜂起が起きています。1989年の1年間でバリン郷だけで延べ250人のウイグル人女性の子供が強制中絶されました。こうした「計画出産」に抗議し、漢民族の大量移住の禁止を求めて蜂起したんです。

その他、ウイグル人に対する政治弾圧・民族差別の撤廃と、民主化を求める要求も掲げられました。ただし、この抗議は、徹底的に弾圧されて、アムネスティ・インターナショナルによると、約6000人が「反革命罪」で訴追されています。

2年間で自然人口増加率が83%も低下した地域も

【楊】かなり以前から、中国政府による「産児制限(バースコントロール)」は始まっていたわけですね。それは南モンゴルも同じです。当時の中国は「一人っ子政策」でした(その後、急速な少子化を危惧し、2016年に「2人出産」が容認され、2021年には「3人出産」も容認)。

ただ少数民族は、子供は3人まで認められていました。これに対して、漢民族も少数民族も、非常に不満だったんです。漢民族からすると、「なぜ少数民族だけ3人まで許されるんだ」となります。しかし、人口規模からすると漢民族の方が圧倒的に多い。

ですから、少数民族からすると、「膨大な漢民族の人口こそ問題であって、なぜ少数民族の我々が犠牲を払って、産児制限をしなければならないのか」となるわけです。

現在のウイグルでは、もっと深刻な事態が起きています。2019年春頃から、ウイグルでの強制収容所、強制不妊手術、強制労働などの悲惨な実態が国際的に報じられるようになりましたが、一連の報道の根拠になったのは、ドイツ出身の人類学者エイドリアン・ゼンツ氏(現在、アメリカ在住)の学術研究です。

そのゼンツ氏は、『文藝春秋』2021年9月号で、こう指摘しています。

「(新疆ウイグル自治区の)カラカシュ県では2018年から過去2年間で自然人口増加率が83%も低下しました。従来の計画生育政策の規制を上回る厳しさで出生抑制措置をおこなっていることは明らかでしょう。