学校ではほとんど行われていない性教育。一方、最近家庭向けの本が次々と出版されており、性教育に注目が集まっている。長年学校現場で性教育に携わり、共著で出したコミックエッセイ『おうち性教育はじめます』が話題の村瀬幸浩さんと、「社会から性差別をなくすためには男の子の育て方がカギ」と説く弁護士の太田啓子さんが、日本の大人の「性」に対する知識の欠如について語った――。
撮影=プレジデントウーマン編集部
太田啓子さん(左)、村瀬幸浩さん(右)

私たちは、性についてまともに学んでこなかった

【太田】今、性教育に関心を持つ親が増えています。子どもにはしっかり教えなければマズいという「危機感」を持っているのですが、そもそも親たちも性について教えられていません。どう伝えればよいかもわからず、モヤモヤしているんじゃないでしょうか。

特に女性は、自分がこれまでに男性から言われたりされたりして嫌な思いをしたさまざまな経験から、「息子があんな男になってしまったらどうしよう」と思っている人も多い。

【村瀬】私は男子校で育ち、女性とあまり話す機会もなく、性に関する教育など全く受けたことがありませんでした。古本屋で手に入れるエロ本や猥談しか情報源がなく、友人から聞くあやふやな知識しか持っていなかった。

青年時代は、女性との関係作りに自信が持てず不安や焦りがありましたし、大学生時代から付き合っていた妻と23歳で結婚してからも葛藤がありました。月経痛で寝込んでいる妻をまるで理解できない、思いやりのない夫だったと思います。今の親世代も、そんなに変わらないのではないかと思います。

誤った知識を「学び落とす」

【村瀬】男性たちは、性について学ぶチャンスがなかっただけで、本質的に無神経だったり暴力的だったりする人などいません。しっかりと学びさえすれば、誰でも変わることができます。もし間違った理解をしてしまっていても、人間は「学び落とす」「学びなおす」ことができるんです。

私は25年間、一橋大学や津田塾大学などで「人間と性(ヒューマンセクシュアリティ)」という授業を担当したんですが、講義では「これまでの20年間で身につけた、間違ったセクシュアリティの知識や思い込みを、僕の授業で学び落としてほしい」と学生に伝えてきました。

【太田】一度誤った知識を身に付けても、変わることができると聞くとほっとします。

【村瀬】いくつになっても変わることはできますよ。あるセミナーで講演をしたとき、聴衆の中にいた60代のお医者さんがこんなことを話されました。

「いつも妻とのセックスの合図は“おい”と声を掛けるだけで、妻がそれに従うのは当たり前だと思っていました。しかし今、妻はどんな気持ちでいたのだろうかと考えます。もっと早く性について学んでいたら、妻につらい思いをさせずに済んだかもしれない」と。

そう言って涙を流されました。このように劇的に変わった方は何人もいらっしゃいます。