「嫌い」と言えない「お人よしのいい人」ほど収入が低い

「嫌い」を言えない人は、「利己的」と思われたくない、「いい人」が多いと思います。ですが、「いい人」にはちょっとショッキングな研究があります。

中野信子『「嫌いっ!」の運用』(小学館新書)

「お人よしのいい人ほど収入が少なくなる」という研究です。

これはアメリカのコーネル大学、ベス・A・リビングストーン(Beth A. Livingston)、ノートルダム大学、ティモシー・A・ジャッジ(Timothy A. Judge)、カナダのウェスタン・オンタリオ大学、チャーリス・ハースト(Charles Hurst)による研究で、約9000人を対象に、協調性のテストと収入を調べた結果、協調性が高いほど収入が低いことが導かれました。

研究では、協調性には「信頼性=trust」「率直さ=straightforwardness」、「迎合性=compliance」、「利他主義=altruism」、「謙虚=modesty」、「優しさ=tender-mindedness」の六つがあるとして、これらを備えている人は収入が低くなりやすいことがわかったのです。さらに協調性の高い被験者が、最も管理職になれないという結果が出たのです。

もちろん、収入が高いから幸せであるとは限らないでしょう。

しかし、協調性があるために、そこに付け入られ、人から搾取されてしまうということが世の中では起きているということは知っておいてもよいと思います。

だからといって「利己的であれ」と言うわけではありません。

お人よしのための「嫌い」のコントロール方法

自分だけが幸福になるということには無理があります。自分が幸せだと思っても、家族や友人、仕事や趣味の仲間、親しい知人が不幸では、その幸せにも限りがあります。

人が人の中で生きていく上で、完全に、利己的に生きるというのは不可能です。要するに利己的というのも程度の問題で、特に「利他的」を尊び、「同調圧力」の強い日本では、うまく「嫌い」を使って、いささか「利己的」に考えることで、自分を守るように行動するのも一つの方法だと思うのです。

自分の心身は自分で守る意識をもつ。そのためにも、まず「利己的」に、自分の幸福を大事にするということを意識してみてはどうでしょう。

そして利己的になり、もしくは自分を優先しながら、所属する集団の利益も最大化する方法を考えるのです。

そのためには、「嫌い」を知り、できることとできないことを見極めて、「できることは全力でやりますが、これは自分にはできない」と、自分の「嫌い=できない」を発信する力も身につけていくことが必要です。

ただ「断れないだけ」の人も

「利他的」というのは、ある意味では自己犠牲の上に成り立つことです。それを続けることで、本当に自分が犠牲になってしまうことがあります。頼まれることを何でも聞いていて、結局、何もかも中途半端になってしまっている人がいますが、本人は、利他的であるとか自己犠牲などと思わずに、ただただ、断れないだけの場合もあります。

「利己的」の自由も認め、他の利益も最大化できるようなバランスを保つスキルをもっている人こそ、強く生き残っていける人なのではないでしょうか。