子どものやる気を出させるためにもお金が必要

よく学歴は本人の努力しだいで手に入れることができるから、公平に近い指標だと言われることがあります。しかし、実験結果を見る限り、実際には親の収入や周りの環境がかなり影響を与えるようです。

写真=iStock.com/Prostock-Studio
※写真はイメージです

東京大学名誉教授の上野千鶴子氏は2019年の東京大学学部入学式の祝辞で「あなたたちが今日『がんばったら報われる』と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです」と述べ、大きな話題を呼びました。

上野氏が東大の新入生に向けてこのような発言をしたのは、本人の努力以外に、どのような環境で生きてきたかというのが、学力などにも影響を与えていることを伝えたかったからでしょう。

お金があれば、単純に学費や塾の費用などの教育費をたくさん出せるのはもちろん、子どもにいろいろな機会を与えてあげることができます。

たとえば、小学校の頃に日本の各県の特徴や名産を学びますが、教科書をただ眺めているだけだとなかなか頭に入ってこないでしょう。

それよりも、実際にあちこち旅行に連れて行ってもらい、「青森県は、リンゴの生産量が全国一なんだ。そういえば、青森に旅行したとき、リンゴ狩りをしたな」などと自分の体験に即して学ぶことができれば、記憶に残りますし、学習意欲も湧きます。

でも、親にお金と時間がないと、こういう体験をすることができません。

「努力がすべて」という考え方は危険

学校の勉強以外に、いろいろな分野で知的な刺激を得られることが、子どもの学力に大きな影響を与えていると僕は思っています。

なかには、貧乏な家庭に生まれながら、学力が高い子どももいます。ビートたけしさんのお母さんは、極貧の中で「教育こそが貧乏から抜け出る道だ」と猛烈な子育てをしたことで有名です。

そして実際、ビートたけしさんと兄の北野大さんは大学進学率が30%を切る時代に、二人とも明治大学へと進学しました。とくに大さんは学問の道へと進み、明治大学の名誉教授にまでなっています。

こうした本人の努力によって、テストでいい点を取ったり、いい大学に入ったりするのは、もちろんすばらしいことです。

でもそこで、努力すれば必ず報われるとは考えないほうがいい。うまくいかない人に対して、「お前の努力が足りないからだ」と否定してしまうことにつながるからです。

ここまで見てきたように、学力は環境によっても大きく左右されるので、努力がすべてではないということを意識しておいたほうがいいと思います。