「ペットボトルにすればいい」と思うかもしれないが、消費者には“背徳感”もある。

「毎回ペットボトルですませてしまうと、夏はどんどん空き容器も増えてゴミ出しの時に驚く。在宅時間が増えたから『自分で作らないと』と思われる方も多いようです」

また、高原氏は次の点も指摘する。

「家庭で作るお茶はお湯を沸かして煮出し、それを冷まして冷蔵庫へ……と、案外労力のかかる『見えない家事』の一つです。対して『やさしい麦茶』の濃縮缶は水を入れるだけで完成するので、こうした家事負担も解決できるのです」

もちろん水出し・煮出し用のティーバッグは安く、1回当たりのコスパは圧倒的によいが、多くの消費者は上手に使い分けるのだろう。

2020年の出荷見込みでは、4品に増えたサントリーの濃縮缶は対前年比で約3倍、「やさしい麦茶」単品では同1.5倍になる見通しだ(同社調べ)。

なぜここまで麦茶が飲まれているのか

冒頭で「消費鉄則が崩れてきた」と記したが、「冬でも麦茶を飲む人」も増えた。

GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶(2リットルボトル)写真提供=サントリー食品

「当社の推定値では、出荷数量ベースで夏:冬の割合(※)は7:3となっています。冬の飲用量が増えたのもあり、富士経済の調査では2009年と2019年を比較すると、麦茶市場は4.5倍に急拡大しています」

「夏にごくごく飲む」イメージが強かった麦茶を、なぜ冬でも飲むのだろうか。

「まずは健康意識の高まりで『麦茶はノンカフェインで身体にやさしい』のが再認識されたと思います。また、昔から日本人に好まれる飲料で、子ども時代に飲み続けた経験を多くの人が持っています。暖冬で気温が高い日も多く、暖房の普及で室内は乾燥しがちといった要素も大きいのではないでしょうか」

疲労回復に効果があるとされるミネラルを多く含むという健康機能性もある。サントリー食品はペットボトルで「GREEN DA・KA・RA やさしい温麦茶」(500ミリリットル)を9月29日から発売し、濃縮タイプとの相乗効果をねらう。

※夏は6~9月、冬は11月~翌年2月の各4カ月間で比較

「イエナカ消費」の障壁を取り除いた

ビジネス現場の商品開発には「消費者の障壁を取り除く」という視点もある。

ここでいう「障壁」にはさまざまな意味があるが、最も多いのが「ちょっとしたストレス」だ。あえて「ちょっとした」と記したが、これが重なるとかなりのストレスになる。

リモートワークで在宅時間が増えた人の声を聞くと「ペットボトル飲料の消費が増え、飲み終えて捨てる時にラベルをはがすのがストレス」という人が多い。商品によって、はがす部分も異なり、はがしにくいものもあるからだ。