本当にジビエは鳥獣被害対策の万能薬になるのか

代表選手はイノシシとシカです。農林水産省によると、2018年度の農作物の鳥獣被害は158億円。そのうちシカは約54億円、イノシシは約47億円で、サルが約8億円と続きます。国などは、これらの動物について、2011年度を基準として、シカを320万頭から2023年度までに152万頭、イノシシは98万頭を50万頭にまで半減させる計画を立てています。いずれも近年少し減る傾向にありますが、2017年度の全国のシカの頭数は310万頭程度、イノシシは約88万頭と推測されています。依然として多く、目標が達成できるかどうかは不透明な状況です。

写真=iStock.com/Carol Hamilton
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そこで注目されているのが、「ジビエの活用」。捕獲されたイノシシやシカの肉は食べることができ、毛皮は製品に活用できます。駆除するだけではなく、命を奪うからには、その肉や毛皮を大事に使おう。あわよくば、それを産業にして、農村振興にもつなげよう、そんなコンセプトがうかがえます。

私も都内のジビエ焼き肉店を訪れたことがありますが、とてもおいしく、食べながら話のネタにもなり、楽しい会になりました。ジビエ活用は、消費者にとっても悪くない取り組みのようにも思えます。記事にあった「被害減少と資源の活用という『一石二鳥』」だけでなく、農村の所得向上や、消費者の楽しみを増やすことも加えた「一石四鳥」くらいにはなりそうです。一見したところ、ジビエこそ鳥獣被害対策の万能薬のようにも感じられます。

でも、そう簡単には行きません。

消費者は「おいしいジビエが食べたい」一方で…

あくまでジビエのおおもとにあるのは「鳥獣被害の防止・抑制」です。しかし、いざ真剣に考えてみると、このジビエ活用に関わる関係者は、それぞれの立場で目指すものや、利害が一致しないところがたくさんあります。それぞれの立場から考えてみましょう。

まず、消費者の立場からです。ジビエ料理の店に行く人の中には「食べて鳥獣被害を防止するんだ!」と意気込む方もいるかもしれませんが、多くの人はおいしいジビエが食べたいと思っているはずです。

好みはいろいろあるかと思いますが、やはりおいしいのは、たっぷりと脂ののったジューシーな肉だという人が大半でしょう。例えばイノシシの場合、おいしい脂ののった肉を獲りたい場合は、寒い冬に備えて脂肪を蓄える秋以降に捕獲することが望ましくなります。

一方で、イノシシの被害が大きい作物の一つが米です。夏の田んぼにイノシシが入り込んで米を食べたり、獣臭を付けてしまったりすると、商売になりません。農作物の被害を抑えるなら、米の収穫前の夏にはイノシシを駆除する必要があります。

そうすると、農村では、米を大事にするのか、イノシシ肉の商売を大事にするのかという葛藤が生じてしまいます。「たらふく食べた美味しいイノシシを出荷して欲しい」なんて消費者目線は、農村の人々の願い、鳥獣害対策とはやくも逆行してくる恐れがあるのです。