「宇宙を手にしたものが未来を手にする」

「長征5号」は全長約57メートル、低軌道への打ち上げ能力25トンを誇る大型ロケットで、火星探査機や「嫦娥5号」、それに中国版宇宙ステーションの基本モジュール「天和」など、重要な打ち上げミッションを一手に担っている。

一方「長征9号」はアポロ計画の「サターンⅤ型」ロケットとほぼ同性能の超大型ロケットだ。全長103メートル、直径9.5メートル、低軌道へのペイロード投射能力は「サターンⅤ型」の137トンを超える140トンである。最大の商用ロケット、スペースX「ファルコンヘビー」の63.8トンと比べると倍以上の能力だ。

2019年3月、推力500トンの第一段エンジンの試験に成功したと新華社などが伝えた。開発責任者の中国航天科技集団の張智総設計師は、「宇宙を手にしたものが未来を手にすることになる」と語った。

中国は2020年7月、火星探査機を打ち上げる予定だ。探査機が火星に到達する2021年、中国共産党は創設100周年を迎える。有人月面着陸、宇宙ステーション、火星探査など、中国は党と国家の威信をかけて宇宙開発に取り組んでいるのである。

国策として、人海戦術で宇宙開発に取り組む

中国の宇宙開発は国策である。主力を担うのは工業情報化部傘下の「中国国家航天局」と人民解放軍だ。米国の宇宙開発を率いたのがドイツ出身のヴェルナー・フォン・ブラウン、旧ソ連がセルゲイ・コロリョフだとすると、中国で「宇宙開発の父」と呼ばれるのは銭学森である。銭博士は1935年にマサチューセッツ工科大学(MIT)の航空工学科に入学、1949年にはカリフォルニア工科大学教授となった。同年10月、中華人民共和国が成立したため銭博士は帰国しようとしたところ、折からの「赤狩り」に巻き込まれ、スパイ容疑で拘束された。

倉澤治雄『中国、科学技術覇権への野望 宇宙・原発・ファーウェイ』(中央公論新社)

1955年、ようやく帰国した銭博士は中国国防部傘下の「第五研究院」の院長となり、毛沢東の「両弾一星」を完成に導いた。その後「第五研究院」は「中国運載火箭技術研究院」に再編され、ロケットやミサイルの研究を担っている。

ロケットや衛星の開発・製造は二つの国有企業が担当している。一つが「中国航天科技集団有限公司(CASC)」であり、もう一つが「中国航天科工集団有限公司(CASIC)」だ。

中国の強みは何といっても圧倒的な数の人材だ。CASCは従業員数約17.4万人、CASICは約15万人、合わせて30万人を超える。研究機関や人材供給源として中国科学院のほか、北京航空航天大学、北京理工大学、ハルビン工業大学、西北工業大学、ハルビン工程大学、南京航空航天大学、南京理工大学を抱えている。

NASAの職員数が約1.8万人、JAXAの職員数が1600人弱であることを考えると、いかに巨大かよくわかる。

人海戦術で国策を推進する中国か、それとも国際協力とオープンアーキテクチャーの米国か、熾烈な「第二のスペース・レース」がすでに始まった。

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