不祥事企業のトップに欠ける「権限の感覚」

天下を治めるには、まず君主が自分の行いを正しくコントロールすべきである。自分をコントロールするためには、勉強をしなければいけない。勉強をするときは、素直さと謙虚さを忘れずに、正しい教えを請うべきである。正しい教えを学べば、正しい自分になることができる。そうすれば、天下はおのずと平和になる——と太宗は考えました。

中国の皇帝は、臣下の生殺与奪権という伝家の宝刀を持っていました。部下や人民を生かすも殺すも、与えることも奪うことも自分の思うままです。

出口治明『座右の書「貞観政要」』(角川新書)

けれど、皇帝は、むやみに権力を行使してはならない。権力は正しく使うべきであり、そのためには、自分が正しい人間にならなければいけない。太宗はこの宝刀の威力を知っていたからこそ、その力をもって人民や家臣を服従させてはいけないと自分を戒めたのです。

太宗と臣下の問答を注意深く読むと、「権限の感覚」、「秩序の感覚」がいかに大切かに気づかされます。

不祥事を起こした企業のトップには、太宗のような、謙虚さ、自制心、自立心、倫理観が欠如していたのだと思います。上に立つ人間は、誰よりもよき市民でなければならないのです。

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