ただ上司に向かって「できない」と言うには大変な勇気が必要です。単に「無理」と突っぱねるのではなく、「要求水準を達成するためにはこんな態勢を整えてもらう必要がある」と論理的に経営陣に説明することが大切です。

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1週間に50時間以上働く労働者数は、日本が先進国中で最高

トップもふだんは実務に関わっているわけではないのですから、レポートだけで判断せず、現場からの声に耳をしっかり傾ける必要があります。部下から悪い話が聞こえてこないような会社は、不健全な会社と疑うくらいの姿勢が重要です。

さて、人が足りないわけでも能力が低いわけでもないのに多忙な社員がいるとすれば、仕事の過剰な抱え込みが疑われます。会社では、できる人に仕事が集まりがちです。全部引き受けていては大変なことになるのですが、忙しい忙しいと言いながら意外にそれを楽しんでいる人がいるのも事実です。「俺しかできない」と言いながら抱え込んでしまうのです。

こういうタイプは、仕事を他人に任せることが怖いのです。ひとつでも仕事を誰かに渡してしまうと自分のポジションを取られてしまうのではないかという強迫観念から、なかなか手放せません。仮に任せても毎日のように「あれはどうなった、これはどうなった」とうるさい。

すべて自分で処理するという発想自体がおかしいのです。本当に自分にしかできない仕事は残して、それ以外は同僚・部下に渡す必要があります。この見極め能力が、組織では重要な力になります。

例えば自分が課長だとすると、いずれ部長になる。部長になれば、こういう仕事の割り当て能力は不可欠です。課長の頃から仕事の振り分け術を磨いておけば、部長クラスの判断能力を身につける練習にもなります。

今や日本企業といえども滅私奉公は必ずしも報われない時代。ヘトヘト社員は、本人と会社の双方にとってマイナスです。早めに原因を見つけて本人と会社がともにプラスになる手を打つことこそ、上司の腕の見せどころなのです。

(斉藤栄一郎=構成 山口典利=撮影)