政府の誘導策の失敗といえそうだが、じつは大企業でも積立金額の減少を余儀なくされる地殻変動が起きている。その要因は2つだ。1つが低金利と運用難による企業年金の積み立て不足。前述したように企業年金は会社が外部に委託して運用し、積み立て不足が発生すれば不足分を会社が補てんしなければならない。あるいは約束した企業年金を減らすしかない。実際に企業は補てんと並行して企業年金の給付額を減額してきた。

給付額の減少を生み出すもう1つが00年の「退職給付会計」の導入だ。決算書に新たに退職給付債務や積み立て不足などを記載することが義務づけられ、積み立て不足が大きいと業績にも悪影響を与え、株価の低迷や社債格付け降格のリスクをもたらす。そのため、経営サイドとしてはできるだけこの確定給付年金をやめる、もしくは減額したいというのが本音だ。

401kは2%で運用できないと損をする

企業年金減少の解消策として脚光を浴びているのが「確定拠出年金(401k)」。会社が拠出した掛け金を社員が自分で運用する年金だが、最大のメリットは、運用損失が発生しても不足を穴埋めする必要がなく、財務リスクがない。02年の制度運用開始以来、導入企業が年々増え続け、18年3月末には3万312社に達している。近年では確定拠出に全面移行する企業が徐々に増え、製造業ではパナソニックに続いて19年の10月にはソニーが全面移行を予定。博報堂も19年4月から移行した。いずれの企業も導入目的に「財務上のリスクの軽減」を掲げている。

導入企業が増える一方で、社員にリスクがのしかかる。401kは運用次第で老後の資産を増やせると喧伝されているが、実態は異なる。401k加入者の19年3月末までの平均運用利回りは1.86%(格付け投資情報センター)。悪くないように見えるが、じつは企業が設定している想定利回りの平均は2%なのだ。

「想定利回りは、会社が拠出した金額を2%で運用すれば退職金目標額に達するという前提です。したがって2%で運用できなければ定年退職時の目標額に達しない。しかし実際は、景気の好不況に関係なく0~1%の利回りの人が4割程度います」(植村事務局長)

いまの運用実態が続けば退職金はますます減っていくことになる。

退職金が減ること以上に企業が問題視しているのは、退職金の存在意義だ。前出の一部上場企業の人事部長は「退職金は役職によって異なりますが、20年前から減少し、いまは平均2000万円弱です。いまの40代半ばの定年時は1000万円を切っている可能性がある。しかし、最も大きな問題は退職金が終身雇用を前提にしていること。いまは中途採用も積極的に増やしているし、会社に長くいるから退職金も多いというのは平等とは言えない」と指摘する。