正論オジサンは「FBI式」で黙らせるしかない

これからモラルやルール、マナーを盾に、他人を攻撃する人が増えていくことは大いに考えられる。違法駐車が許せないからと、車を傷つけてはならないし、子供の声がうるさいからといって、恫喝することなど許されないだろう。こうした人たちは、本来何の権限もないのに、自分には制裁する権限があると思い込み、「私刑」を実行しようとする。そうした個人の「ポリス化」に対し、どう向き合うべきなのか。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kei_gokei)

これは日本社会特有の課題ともいえる。というのも、誰もが堂々と自己主張をし、その利害関係を訴訟や調停の場で解決するといったことが当たり前のアメリカなどとは違い、同調圧力を利用して、なあなあの解決策を探るというやり方が一般的だった日本には、ガチンコの「紛争解決」を図るためのコミュニケーションのノウハウが蓄積されていないからだ。

松阪市のケースで注目されるのは、商店街や行政、男性との間に、有機的な話し合いの場が設けられてこなかった点だ。お互いが感情的に対立し、言い分をぶつけ合ったところで、事態は打開できない。

人はロジックでは動かない。自分の固く信じる信念や正義だと思う価値観は、どれだけ説得力のあるデータや論拠を示されても、まず変わらないものなのだ。

この「正論オジサン」は全身から「俺の話を聞いてほしい」「存在を認めてほしい」というメッセージを発しているように見える。こうした人と向き合う場合、きっちりとした「紛争解決」の方法にのっとって解決策を探る必要がある。

固く閉じた相手の心を開き、打開策を見いだす唯一の方法

ここで、アメリカ連邦捜査局(FBI)で活用されている最強の説得術を紹介したい。

①アクティブ・リスニング
相手の話を聞き、しっかりと聞いているということを相手に理解してもらう。
②共感
相手の素性や気持ちを理解する。
③相互信頼
相手から信頼を得る。
④影響
自分が相手に望む行動を薦める。
⑤行動変容
相手が行動を変える。

これは、FBIの人質解放交渉ユニットによって開発された「行動変容階段モデル」だ。これらのプロセスには慎重さが求められ、相応の時間がかかることは想像に難くない。

正論オジサンと人質誘拐犯の要望はまったく異なるが、固く閉じた相手の心を開くには、こうした骨の折れるステップを経なければ、打開策を見いだすことは難しいという考え方なのである。

今回の場合、男性がそれほど安全性にこだわるのであれば、地域の住民の声や他の商店街のケースなども参考にしつつ、いかに安全であるかを示し、落としどころを探るという方法もある。もしくは、法律順守にそれほどこだわるのであれば、恫喝や破壊行為などは違法であることなども十分に説明し、警察や行政の介入によって解決を図るやり方もあるだろう。

これからどんどんと増えてくる「正義」と「正義」のぶつかり合い。日本古来の「以心伝心型」の意思疎通では、こうした衝突や紛争には対応できない。好むと好まざるとにかかわらず、個人も組織も、二極化時代の「コミュニケーション」や「トラブルシューティング」の方法について考え、学んでいかなければならないのだ。

(写真=時事通信フォト、iStock.com)
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