参院そのものが十分機能していない
朝日社説は「解散権の乱用問題は古くから論争の的だ。権力の振り分け方を正すという観点から、そろそろ再考すべきである」と主張し、参院の在り方にまで触れる。
「政治改革後の歴代内閣は、長期安定政権と、『ねじれ国会』に由来する短命政権とに二分される。その意味で、参院への権力の割り当てと、その役割の見直しも避けて通れない。『地方の府』にする案をはじめ、議論の積み重ねはある」
ここで朝日社説が指摘する「参院への権力の割り当て」の意味がよく分からない。解散権の乱用は確かに問題だが、何らかの形で参院に権力を与えたとしても解散権の乱用が是正されるとは限らない。参院そのものが十分機能していないところに問題があるからだ。参院廃止論も出ているぐらいだ。
たとえば法案の審議を衆院から始めるのではなく、参院先議といって最初に参院で審議してから衆院での審議に移るやり方をもっと増やして参院自体を活発化させる方法もあるだろう。
「最も警戒すべきなのは、米国と中国の覇権争いによる混乱」
次に読売新聞の1月1日付の社説を読んでみよう。30年前の1989年、平成元年までさかのぼって政治の変遷から書き出し、内閣や国会の権力の在り方を論じた朝日社説とは違い、読売社説は米中の対立に対し、日本がどう臨んでいくべきかを主張している。
書き出しはこうだ。
「米国が内向きの政治に転じ、欧州は、ポピュリズムの横行と英独仏の混迷で求心力が低下した。世界の安定を支えてきた軸が消えつつあるようだ。こうした中で、最も警戒すべきなのは、米国と中国の覇権争いによる混乱である」
なるほど、中国は世界屈指の消費者数と巨大な産業構造を駆使し、そのGDPは30年間で30倍という飛躍を遂げた。アジア諸国を巻き込む一帯一路という巨大経済圏構想も掲げている。南シナ海での人工島建設や日本固有の領土である沖縄・尖閣諸島への進出など軍事力も想像以上に増強している。ここ数年、宇宙にまで軍事触手を伸ばしている。IT(情報技術)やAI(人工知能)の開発も目覚ましい。
米国が警戒するのは当然だ。米国と中国の覇権争いによる深刻な混乱も起きるだろう。
「米国の同盟国であり、中国と深い関係にある日本」
そんな状況下で日本はどう動けばいいのか。
「世界1位と2位の経済大国の対立は、安全保障や通商、ハイテクなど多岐にわたり、相当長い間続くと覚悟すべきである」
「米国とソ連による冷戦の終結宣言から30年、『新たな冷戦』に怯え、身をすくめていても意味はない。米国の同盟国であり、中国と深い関係にある日本こそが、地域の安定と繁栄を維持する責務を、粘り強く果たさねばならない」
読売社説はもっともらしいことを主張するが、果たしていまの安倍政権に地域の安定と繁栄を維持することなどできるだろうか。数の力に頼り切っている安倍首相に中国の習近平(シーチンピン)国家主席を制するだけの大きな器があるとは思えない。
ただ、読売社説の「米国の同盟国であり、中国と深い関係にある」という指摘はうなずける。いまこそが日本のチャンスなのかもしれない。安倍首相がそのチャンスに早く気付いて日本の外交に生かすことを期待したい。