よくある実用書と『生き方』の違い
『生き方 人間として一番大切なこと』に書かれているのは、どれも稲盛と共に働いた社員なら皆何度も聞かされていたことです。しかし、だからこそ、読めば読むほどその大切さに気付かされるような思いがします。
どれも重要なことばかりだと感じていますが、特に印象に残っている部分が何点かあります。
まず、「人格」とは持って生まれた先天性の「性格」に人生の過程で学び身につけた後天性の「哲学」を加えることによって陶冶してゆくものだということ。つまり、どのような哲学に基づいて人生を歩むかによって、人格は決定づけられるのだ、ということです。
それから、「継続が平凡を非凡に変える」。やるべきことを一心に黙々と努めていれば、思いが成就するということです。「悟りは日々の労働の中にある」とも書かれています。
かつてわれわれ日本人は、働くことに深い価値と意味を見出していました。人は仕事を通じて成長し、心が磨かれるのです。今、働き方改革が盛んに叫ばれていますが、やはり労働は尊いことだという発想は必要だと思います。ボロボロになるまで働くのがいいというわけではありませんが、人間が手と頭を使い、時間をかけてやらねばならないことは必ずあると考えています。
効率だけを追い求めて余った時間はリフレッシュに使いましょう、ということだけでは、日本人は駄目になってしまうと思います。
また、人生は2つの「見えざる手」に統御されている、その宇宙の意志と調和する必要があるのだとも、何度も聞かされました。
見えざる手のうちの1つは、生まれながらにして決定づけられた「運命」です。しかし、われわれは全くもって無力だというわけではありません。もう1つの見えざる手、それが「因果応報の法則」です。善きことを思い、行うことによって、運命の流れを善き方向へ変えることができる。
宇宙はあらゆるものを成長発展させようとしています。その意志と調和していかなるときも一心に努めれば因果が巡って報われる、という話でした。
こうした内容がすべて積み重なって、今の私を形づくっているように思います。何か1つの要素が1つの出来事を招いたということではなく、いつの間にか思考のベースとなっていたものが何か困難に際したときにブレークスルーの一端を担うような感覚です。
この本がこれだけ多くの人の心に響いているのは、稲盛が何十年にもわたってずっと同じことを言い続け、また実際にその内容を継続することで成功してきた人だからではないでしょうか。