地方の中小企業で必要な「健康経営」

メディアでよく耳にする「健康経営」の重要性もその1つと辻教授は話す。「都道府県や市町村などの公的な施策だけでなく、職場の健康管理はこれまで以上に重要になっています。企業が社員の健康をきちんと管理することで、それが業績アップにもつながるのが『健康経営』の考え方。職場は働く人にとっては健康な生活を送るための重要な場です。ただこの取り組みも都市部と地方でギャップがある。都会の大企業が積極的に進める一方、地方ではまだまだ意識が低いのが実情です。人不足で悩む地方の企業も健康経営の意識を持つことが重要です」。

宮城県では辻教授が会長となって『スマートみやぎ健民会議』を発足。県と地元の財界が一体となり、県民の健康支援を図っている。ランキングでは、宮城県は平均寿命7位、健康寿命10位に位置している。

これまで長生きできる要素を検証してきたが、ただ長く生きればいいかといえばそうではない。長生きと同時に健康でもいたいものだ。平均寿命が長くても、健康寿命が短ければ、「不健康な期間が長い」ということになる。今回参照したランセットの調査では、全国の平均寿命と健康寿命の差は9.3歳。これよりも差が大きければ寝たきりなどの不健康な期間が長く、差が小さければいわゆる“ピンピンころり”できる都道府県といえる。

ただ、不健康な期間が長くても長生きしているということは、医療や介護などの老後のケアが手厚いともいえる。差が大きい都道府県を見てみると、地方に多いことがわかる。

この地方と都会の関係について、辻教授は「地方は医師不足が年々進んでいます。その影響で今後の健康寿命は変化する可能性がある」と指摘する。ただし、渋谷教授は「ただ医師の数だけが問題なのではない」と語る。「医師の数に格差はあるかもしれませんが、問題なのは『質』。たとえば、心臓バイパス手術の場合、成功率が一番高い都道府県と、最下位ではかなりの違いがある。疾病構造も異なる。地方で必要なのは、最先端の医療だけではなく、高齢者への地道なケアや生活支援だったりする。必要な人に必要な医療が届いていない現実こそが問題。求められるのは、医療の『最適化』なのです」。

“短命県”の汚名返上なるか!?

最後に渋谷教授は、今回の調査についてこう話してくれた。「寿命が数値化され、ランキングになることには意味がある。データを見て、各自治体の健康施策への意識が高まる効果がある。ランキングが高いと、都道府県にとっては『ブランドイメージ』向上になるし、それを守るために努力します。反対に、低かった県は汚名を返上したい。どの自治体も、隣県や、ライバル県への意識が驚くほど強い。データを公表したときに、ある県の担当者が『なんでうちの県があそこより低いんだ。間違いじゃないか』と抗議してきた。それくらい意識の高い自治体もあるのですから、施策に差が出て当然です」。

自分の住んでいる地域だけでなく、出身地などの政策や具体的な施策を調べるのはもちろん、ほかのエリアとの比較をすることで、少しでも健康で、長く生きられる道を探りたいものだ。